(ブルームバーグ):エコノミストの多くが年内を見込む日本銀行の追加利上げについて、金融市場の見方は懐疑的だ。米国の利下げ軌道や日米の政治情勢など不透明要因が多く、再び円高や株価の下げが加速するリスクを投資家は警戒している。

「乗っていたエレベーターのロープが切れたような恐怖心を味わった」。日銀の利上げ余波や米国の景気不安で日本株が急落し、円が急騰した8月5日をこう振り返るのはオールニッポン・アセットマネジメントの永野竜樹社長だ。歴史的な大変動から間もなく、相場に日々身を置く立場からすると、「米欧が利下げに向かう中、日銀だけ利上げできるのかという疑念が強い」と同氏は言う。

ブルームバーグが6日から11日にまとめた調査によると、エコノミスト53人中、年内の追加利上げを予想したのは36人と7割近くで、来年1月まで含めると9割近くに達した。一方、オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)が織り込む利上げ確率は年内が3割程度、1月も約6割にとどまる。OISは市場の金融政策見通しを反映する。

今週19、20日開催の日銀金融政策決定会合については、エコノミスト、市場とも金融政策の据え置きで予想が一致している。

日銀の次回利上げ、エコノミストの半数以上が12月予想-サーベイ

野村証券の松沢中チーフストラテジストは、ヘッジファンドやトレーダーと話をしても、年内利上げの見方は消えていないが、「8月初旬の市場の混乱を境に確信度合いは落ちており、それがOISに反映されているのではないか」と指摘。7月の利上げを的中させた同氏は、次の利上げは来年4月と予想する。

 

日銀は7月の利上げが急速な円高と株価下落を招いた後も、金融政策の正常化を進める方針を維持している。植田和男総裁は8月23日に行われた衆院財務金融委員会の閉会中審査で、日銀の経済・物価見通しが実現する確度が高まれば、金融緩和の調整を行う姿勢は変わらないとの見解を示した。

少なくとも1%へ利上げ必要、市場動向配慮し段階的に-田村日銀委員

オールニッポンの永野氏は、日銀はテイラールールなど理論的な枠組みから、今の物価上昇の下でもっと金利が上昇してもよいという考え方で、エコノミストも同様の見方をしているのだろうと話す。さらに、エコノミストは「データに変化が出てこないと、見通しを変えられないという面もある」と言う。

7月の金融政策決定会合を前に行った調査では、エコノミストの7割が現状維持を予想していた。コンセンサスに反し「利上げを実施してもおかしくない」とみていたパインブリッジ・インベストメンツ債券運用部の松川忠部長は「エコノミストはデータの後追いになりがちで、どうしても判断の変更は遅れがちになる」と指摘する。

日銀は7月利上げの地ならしをしているように見えるーパインブリッジ

昨年7月以来の1ドル=139円台に一時突入した円高進行という外部環境の変化に加え、松川氏が重視するのが景気減速のリスクだ。世界経済と連動する銅価格は既にピークを打ち、原油価格は下落基調にある。そうした中、誰が米大統領になり、日本の首相になるか分からない状況で「日銀だけ世界に逆行して利上げに踏み切るのは難しい」とし、年内の利上げなしと予想する「OIS市場の方が正しい」とみる。

オールニッポンの永野氏も「円安下で日銀の政策正常化を後押しした政権も、株価を押し下げるような金融政策には慎重だろう」と予想。日米とも政権の枠組みがはっきりするまで経済や金融市場への影響が見極められず、「不透明感が極めて強い中、日銀は焦る必要はない」とみている。

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