(ブルームバーグ):米連邦公開市場委員会(FOMC)は今週の政策決定会合で重大な決断を迫られている。25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げで景気抑制的な金融政策をやや緩めるか、リセッション(景気後退)回避のために異例の50bp利下げに踏み切るか。
FOMCは何をすべきか。そして、何をするのか。この2つの問いの答えは必ずしも同じである必要はない。しかし今回はそうなるだろう。
市場が大幅利下げを織り込むきっかけとなった報道を受けて、25bpか50bpを巡る議論は活発化している。筆者は先週、シンガポールで開催されたブレトンウッズ委員会主催のフォーラムで50bp利下げには強力な根拠があると見方を示した。
米連邦準備制度の2大責務である物価安定と最大雇用のバランスは一段と均衡に近づき、金融政策は経済活動を抑制も促進もしない、中立的であるべきことを示唆している。しかし、短期金利は依然として中立金利を大幅に上回っている。この差はできるだけ早く是正されなければならない。
経済データを考えてみよう。失業率は2023年1月の低水準から0.8ポイント上昇。過去3カ月間の雇用者数は20年以降で最も小幅な伸びにとどまった。また、賃金インフレ率は4%未満に減速する一方、米当局が注視する米個人消費支出(PCE)コア価格指数の伸び率は2.5%前後で推移している。8月のコア消費者物価指数(CPI)の上昇率は予想を若干上回ったが、これは遅行性の項目(保険および住居)が押し上げた要因であり、8月の生産者物価指数(PPI)はコア個人消費支出(PCE)価格指数がかなり抑制された数字になることを示唆している。
雇用の下振れリスクがインフレの上振れリスクを上回っているとも言えるだろう。労働市場が一定の水準を超えて悪化すると、そのプロセスを自発的に強める傾向がある。
50bp利下げは米政策当局者が今週発表する最新経済予測とも整合性が取れるとみている。市場で織り込まれている利下げは年末までに少なくとも100bp。もしFOMCが今回25bpの利下げにとどめ、年内あと2回の会合でさらに50bpの利下げを見込めば、タカ派的なシグナルを送ることになる。もし25bp利下げした上で、50bpを上回る追加利下げを見込めば、市場参加者はFOMCはなぜ大幅利下げをすぐに行わないのかと疑問に思うだろう。従って、この窮地からFOMCを救い出す一助となるのは大幅利下げとなる。
FOMCが50bp利下げに踏み切らない場合、その理由は何か。筆者が思いつく最善の説明はこうだ。
第1に、予想される短期金利の行き先は利下げペースよりもはるかに重要だということだ。住宅ローン金利を含む長期金利は見通しによって左右される。25年末までにおよそ250bpの利下げが想定されており、今週の利下げ幅はさほど重要ではないということになる。
第2はFOMCがインフレ退治を確認したいためだ。今年初めにインフレが再加速した際、FOMCは金利を高く、長く維持することを余儀なくされた。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は、1970年代にインフレを抑制できなかったアーサー・バーンズ元FRB議長の過ちを繰り返したくないのだ。
第3の理由として、米国経済がやや減速し、労働市場は弱体化しているもののリセッションやそれに近い兆候がほとんど見られない点が挙げられる。アトランタ連銀の国内総生産(GDP)予測モデル「GDPナウ」によれば、今四半期のインフレ調整後の成長率は年率2.5%と予測されている。
最後は小幅な利下げにとどめておけば、大統領選の共和党候補であるトランプ前大統領の不満に対して先手を打てるかもしれないという理由だ。トランプ氏は、民主党候補ハリス副大統領の勝算を高めるためにFOMCが景気を押し上げていると主張するだろう。米政策当局者は、今年の選挙政治にはできるだけ関わりたくないと考えているはずだ。
いずれにせよ筆者は50bp利下げを見込んでおり、パウエル議長は積極的なアプローチを支持すると考えている。 先月のジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)での講演で、パウエル氏は労働市場のさらなる弱体化を「歓迎できない」と指摘した。FOMCは、今回大幅に利下げすることで、自らの経済予測と市場の見通しを整合しやすくなる。それは経済見通しの裏付けがない不愉快な驚きを与えるよりも良いだろう。
(ニューヨーク連銀の前総裁、ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:The Fed Should Go Big Now and I Think It Will: Bill Dudley
(抜粋)
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