#1アルパカラボ

 アルパカラボ(中城村、棚原生磨社長)は、テクノロジーを通して社会課題の解決を掲げるスタートアップだ。運転代行配車プラットフォーム「AIRCLE(エアクル)」を通して「20年続いた負のスパイラルをビジネスの力で変えていく」と、運転代行業界の業務適正化などの課題解決に取り組んでいる。全国7県でサービスを展開し、沖縄発スタートアップとして勢いづくアルパカが次に狙うのは、普通免許ドライバーを活用した運転手不足の解消だ。運転代行から運転請負へ。ビジネスモデルの変革と拡大を目指す先に描く未来とは。(デジタル編集部・川野百合子)

運転代行エアクルでの迎車のイメージ(アルパカラボ提供)

 エアクルは、人工知能(AI)によって作られたアルゴリズムを取り入れ、利用者と近くにいる運転代行業者をマッチングするサービス。利用者がアプリで車の現在地と行き先を入力すると、近くにいる運転代行業者のドライバーが向かう。料金の目安やドライバーが着くまでの時間が表示されるほか、クレジット決済もでき、検索から配車、決済までをワンストップで提供する。

沖縄タイムス社から那覇空港までの運転代行を頼んだ時のアプリでの表示例

20年続いた負のスパイラル

 これまでは、利用者が複数の代行業者に電話し、配車が可能かを確認する必要があった。配車が確定するまで平均5分以上。週末など利用が混み合う時間帯には到着まで60分ほどかかることもしばしばあった。利用者だけでなく、飲食店がこうした業務外の手配に時間を割かれる場合もある。到着が遅れると店内の回転率も低下するといった問題も生じていた。

 代行業者にとっても、好ましい状況ではなかった。少しでも多く受注して利益を上げたいが、業務効率が悪く時間のロスが生じるなど、収益を上げにくい構造があった。受注獲得のために価格競争が加速し、利益を確保できないことから損害保険の加入など法律に基づく対応が後回しにされてしまうケースが多く発生していた。

 棚原氏は「サービスの質が下がると需要も減り、業界で働く人の給与も減る。そうすると余計に質が下がり...といった負のスパイラルが20年間繰り返されてきた」と指摘する。

 こうした課題を利用者目線で解決したのが2020年8月にリリースした配車アプリ、エアクルだ。2024年5月の沖縄本島での実績値では、アプリによる配車は平均13秒、平均到着時間は7分。従来と比較すると大幅な時間短縮に成功した。

 便利さだけでなく、安全性も重視した。代行保険への加入や自動車運転代行業の認定など、事前にチェック。条件をクリアした優良な事業者が、安全を担保しながら収益を上げられる仕組みを構築した。その結果、利用者の90%以上がサービスを高評価。20~40代の働き盛り世代や女性から支持されているのが特徴だ。

 一方、事業者向けにも効率化を図る各種システムを提供。受注から車両の管理、顧客の管理など、ドライバー、オペレーター、経営者など、それぞれの課題を解消するツールを提供することで、業者側の業務効率化をサポートし、運転代行の受注件数の増加やサービスの質の向上につなげる仕組みを作った。

エアクル関連のアプリや機能の一覧表(アルパカラボ提供)

 飲食店・利用者と運転代行業者の利便性強化だけでなく、業界全体の課題を解決し、運転代行業界の適正化を図る―。こう掲げてスタートしたエアクルは現在、沖縄本島を起点に、福岡、宮崎、熊本、和歌山、茨城、埼玉の全国7県で展開する。

 アプリの累計ダウンロード数は15万件に到達。加盟者は300業者641台、累計注文件数は約40万件を突破した。さらに今後、仙台や大阪、名古屋などの都市圏、鹿児島などの地方でも展開を模索しており、シェアを拡大して登録者140万人、年間500万件の注文数を目指す。

新たなペインにも解決策を

 「業界の適正化」という課題解決に一定の道筋をつけた一方で、深刻な人手不足という大きな課題も出てきた。国内の人口減少や若年層のアルコール離れなど、運転代行業界と密接な飲食文化や飲食店を取り巻く環境も変化している。棚原氏は「代行という事業自体が縮小していくことや新たな出口を探さないといけないことは当初から分かっていた」と語る。

 アルパカラボは、今、新しいサービスに取り組んでいる。それが、ドライバー不足の解消を目指した「エアクルワン」だ。運転代行業とは異なり、運転請負業に当たる。

 通常の運転代行はドライバーが2人一組となり、1人が利用者の車に利用者を乗せて運転し、もう1人が随伴車で追走する仕組みだが、運転請負は折り畳み式の電動キックボードや小型電動自転車などでドライバーがかけつけ、それを利用者の車に積んで利用者の車を運転する。運転代行には必要な2種免許が不要で、普通免許で他人の車を運転して収益を得ることができる。

ドライバーは小型電動自転車などで指定地点にかけつける(アルパカラボ提供)

 普通免許を持っていれば誰でも隙間時間に運転請負ドライバーになれるため、当初は請負業で普通免許の登録ドライバーを増やし、ピーク時間などに対応してもらうという「フリーランスモデル」でのサービス構築を想定していた。

 だが、反響は思った以上に広がった。「試しにと思って作ったフランチャイズモデルが当たった」と棚原氏は言う。月額課金と従量課金を組み合わせた料金システムを作り、既存の代行事業者に導入を提案した。

 実は、エアクルでは、大手の業者に利用が広がらなかったという。エアクルを使うことで、集客効果が見込めることが大きなセールスポイントだったが、大手はすでに集客できている。エアクルを導入するメリットを感じにくかった。

 ただ、エアクルワンは、例えば相方の急な体調不良などでペアが組めない時や、注文が集中するピーク時間帯の人材確保などに使える。大手の代行業者にとっても魅力的で、導入したいという問い合わせが相次いだ。

自分の乗ってきた小型自転車などを車に載せて運転を請け負う(アルパカラボ提供)

 また、飲食店がフランチャイズとして導入するケースも出てきた。忙しくない時間帯に、スタッフを請負ドライバーとして活用することで収入が生まれる。来店客にとっても安心して飲める環境ができて、他店との差別化が図れ飲食店の売り上げもアップした―。こうした循環が生まれているという。

人や物の移動、もっと自由に

 「誰もが自由に普通免許で他人の車を運転して、収益を上げられるような仕組みを作っていきたい」。棚原氏は力を込める。もちろん、代行業者への管理システムの提供や保険会社と連携して運転請負専用の保険を作るなど安心・安全を担保する基盤整備にも取り組んでいる。

 2013年には高齢者以外の2種免許保有者数が110万人いたが、2023年には76万人と3割も減った。「今後10年でさらに3割減るだろう」と予想する。だからこそ約6千万人いる1種免許保有者をドライバーとして活用できれば、今後の市場がさらに広がる可能性が高い。

 エアクルワンの仕組みは、モビリティーや移動に関する多方面への事業展開の可能性を秘めている。例えば、保険会社が事故が起きた時に代車としてレンタカーを手配する場合。これまではレンタカー会社や保険会社が、保険者宅などへレンタカーを持っていき、利用後にまた回収するという流れだった。このレンタカーの配車、回収の時の移動を、エアクルワンを通じて派遣されたドライバーが担うという実証実験が始まっている。「車だけ持っていってほしい、というニーズは意外と多い」と棚原氏は言う。

事業内容を説明するアルパカラボの棚原生磨社長=8月24日、中城村の同社

 夜間、飲酒時といった利用に限られていた「代わりに運転する」というビジネスモデルを、1日を通してできるようになる。体調不良で急に運転できなくなったといった個人的なニーズだけでなく、スクールバスや塾の送迎、介護の現場のドライバー不足、免許を返納した高齢者の買い物への付き添いサービスといった課題も解決にも寄与できる可能性が広がっている。「ニーズは地方ほどある」と棚原氏。潜在的なドライバーを掘り起こすことで解決できる課題は多いはず、と今後も事業展開を模索する。

 ミッションに「課題先進県の沖縄から課題解決のスタンダードを」と掲げるアルパカラボ。ゴールはどこか。棚原氏は「業界の適正化を果たした上で、他の社会課題の解決に寄与することができれば、社会課題が解決したと言えると思う」と語る。運転代行が飲酒運転撲滅だけでなく、地域の移動に関する課題に一つの答えを提供する日まで、その挑戦は続いている。

【スタートアップ・メモ】
会社名   株式会社Alpaca.Lab
設立     2018年8月27日
代表     代表取締役 棚原生磨(たなはら いくま)
住所     沖縄県中頭郡中城村南上原1111-1
事業内容  運転代行配車アプリ「AIRCLE(エアクル)」の展開
        運転請負業「AIRCLE ONE(エアクル ワン)」の展開
従業員数  21人

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