(ブルームバーグ):日本製鉄は約141億ドル(約2兆円)での米鉄鋼大手USスチール買収実現に向け、バイデン大統領やハリス副大統領、トランプ前大統領の反対にもかかわらず、買収の承認を働き掛ける土壇場の努力に動き出した。
USスチール買収で土壇場の努力-日鉄副会長、米政府高官と会談へ
日鉄の森高弘副会長は米政府高官らと協議するため、11日にワシントン入りした。対米投資の国家安全保障上のリスクを審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の勧告が、買収を阻止するかどうかバイデン大統領が決定を行う前提となる。
非公開情報を理由に米当局者の1人がブルームバーグに匿名で語ったところでは、11日時点でホワイトハウスに勧告は送られていない。CFIUSの勧告が届き次第、大統領は不承認の決定を下す予定だと複数の関係者が今月述べていた。
バイデン米大統領、日本製鉄のUSスチール買収計画阻止へ-関係者
11日の米株市場で、USスチールの株価は日鉄との買収合意が発表された昨年12月18日以来の大幅高となった。株価は一時8.7%上昇し、33.92ドルの高値を付け、約7%高の33.39ドルで取引を終えた。
全米鉄鋼労働組合(USW)と米政界の上層部は買収に頑強に反対している。
USスチールと日鉄は11日、USWとのやりとりの詳細を公開する異例の対応を取った。USWとの対話に関し、「誤った情報が流布されている」状況に対応するためと説明した。
日鉄の森副会長はUSWのマッコール会長に宛てた9月3日付の書簡で、「われわれが協力できれば、USスチールとUSW組合員のために驚くほど素晴らしい成果を達成できると引き続き確信している」と伝えていた。
日鉄は「(同社による)USスチール買収が、別の選択肢では不可能な方法で、米国の勤労者と地域社会、国家安全保障に利益をもたらす確信がある」とあらためて強調した。
これに対し、USWのマッコール会長は「結局のところ、この合併は国家安全保障と重要なサプライチェーンを危険にさらす。USスチールと日鉄は、合意の実現に向け最後の抵抗を試み、状況を政治利用しようとしている」と声明で批判した。
日鉄は一部製鉄所に27億ドルを投じると約束しており、それに見合う投資を別の買い手に期待できないと不安視する一部の利害関係者や組合員は買収を支持している。
ペンシルベニア州モンバレーの製鉄所の一つで勤務する組合員を代表するUSWローカル2227のバイスプレジデント、ジェーソン・ズガイ氏は、ピッツバーグに近い三つの製鉄所では一般組合員の多くが計画の承認を望んでいると話す。「モンバレーの雇用が今後50-100年にわたり確かなものになる」と同氏はインタビューで語った。
USスチールの本社があるペンシルベニア州のシャピロ知事(民主)は、公には買収に賛成も反対もせず、水面下で調整役のような役割を果たしているもようだ。「ペンシルベニア州の雇用を守る解決策を見いだすため、全ての当事者と協力している」と知事のオフィスは今月説明した。ホワイトハウスと知事のオフィスは10日、コメントを控えた。
日鉄による買収が頓挫すれば、製鉄所の閉鎖やペンシルベニア州ピッツバーグからの本社移転もあり得るとUSスチールは警告。同業の米クリーブランド・クリフスも全体ないし部分的買収に関心を示すが、提示額は日鉄に劣る。
USスチール、日鉄による買収が不成立なら工場閉鎖へ-WSJ
USスチールが大統領選の激戦州であるペンシルベニア州ピッツバーグに本社を置くこともあって、買収計画は選挙戦で言及されるなど政治問題化した。
バイデン大統領とハリス副大統領は、USスチールが国内で所有、運営される米企業であり続けるべきだと主張し、買収に反対する立場を表明した。共和党候補のトランプ前大統領もホワイトハウスに復帰すれば、直ちに買収を阻止する意向だ。
ピッツバーグとUSスチールの複数の施設があるアレゲニー郡の議員サム・デマルコ氏は、それでも買収に賛成の立場だ。7500人もの雇用が直接・間接的にピッツバーグ地域でのUSスチールの事業に依存しているという。
「大変多くの一般市民が心配なのは、将来仕事があるかどうか、家族の食卓に食べ物を並べ、住む場所を確保できるかどうかだ」とデマルコ氏は述べた。
原題:Biden Is Urged to Reconsider $14 Billion US Steel Takeover(抜粋)
(日鉄とUSWとのやりとりなどを追加して更新します)
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