県民のソウルフード「島豆腐」に絶滅の危機があったことをご存じだろうか。

 1972年の本土復帰に伴い「食品衛生法」が適用され、島豆腐は水にさらして販売することが義務付けられた。「あちこーこー」で売ることが法律上できなくなり100カ所以上の豆腐屋が店を閉めたという。

 島豆腐存続の危機に、当時の県豆腐加工業組合(現県豆腐油揚商工組合)理事長の砂川幸一さん(故人)などが立ち上がり、74年に特例が認められた。豆腐屋の数は減ったが、沖縄の島豆腐は今も県民に愛され続け、豆腐の消費量は全国1位だ。

 食品衛生法の危機を乗り越え、約50年にわたり「あちこーこー」が守られてきた島豆腐。しかし令和に入り、新たに国際的な衛生管理法「HACCP(ハサップ)」が義務付けられることとなった。

 あちこーこー豆腐を販売することは可能だが、55度を下回ってから3時間以内に食べるか、冷やす基準を守らなければならない。量販店では55度以下だと納品できない決まりだ。

 あちこーこー豆腐のみを製造している製造業者には致命的な制度となった。事業者は費用をかけて保温器や保温材を導入するなど、試行錯誤を重ねた。努力のかいあり、沖縄の食文化「あちこーこー島豆腐」は守られることとなった。

 残念ながら当社ではあちこーこーの島豆腐を完全終売する苦渋の決断をした。当時、量販店へ広範囲で納品していたため、基準通りに販売すれば高い返品率が予測されたからだ。

 しかし、再開を期待するお客さまの声は根強く、同様の製法で製造した豆腐を冷蔵販売することに。商品名はあちこーこーのときと同じ「首里とうふ」のままにした。冷蔵豆腐は温め直すことであちこーこーと変わらぬおいしさをお楽しみいただける。売れ行きは好調だ。

 県内の学校給食では10月2日の「豆腐の日」に豆腐のメニューが多く提供される。なじみ深い島豆腐の歴史を、こうした機会に子どもたちにも知ってほしい。

(照屋食品社長)

次回は糸数真由美氏(沖縄振興開発金融公庫調査部金融経済調査課長)です。

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