(ブルームバーグ):パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は23日、インフレとの闘いで米金融当局がその任務を果たしたと、これまでで最も決定的なシグナルを発した。3週間前には金融市場が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以来最悪の混乱に陥っていたが、議長の発言は市場の秩序回復に役立った。
平穏が戻ったことでウォール街は新たな富を生み出しつつあり、パウエル議長が今後の景気後退の回避で功績を残す取り組みを後押しする。
1カ月足らず前には、弱めの米雇用統計発表後にボラティリティーの指数が急上昇していた。S&P500種株価指数は23日、過去最高値まであと1%の水準まで上昇し、7月半ばごろに始まった下げをほぼ帳消しにした。今週は米国債や社債に連動する上場投資信託(ETF)が急伸。ウォール街の恐怖指数として知られるVIX指数は、パニックを示す水準を下回るレベルに落ち着いた。
こうした市場状況はパウエル議長にとって好都合だ。議長は23日、ワイオミング州ジャクソンホールで開かれているカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウムで講演し、物価が落ち着く中で米金融当局は「強い労働市場を支えるために全力を尽くす」と語った。
言い換えれば、市場からの経済成長減速の警告や8月初旬の幅広い資産売りをはね返し、ウォール街とパウエル議長は現在、経済のソフトランディング(軟着陸)に向け認識が一致している。
プリンシパル・アセット・マネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、シーマ・シャー氏は「連邦準備制度がよりハト派的なスタンスに転換し、抑制よりも刺激に重点を置くことで、リスク資産のラリーは米金融当局にとって逆風ではなく追い風となっている」と指摘。「市場はほぼ自動安定装置のように機能しているため、今や連邦準備制度の仕事をより容易にするはずだ」と述べた。
インフレ率が2%に向かって推移する中、今回の議長講演は、連邦準備制度の重点が物価安定の回復から、労働市場を中心に景気を支える方向にシフトしたことをこれまでで最も明確に示した。 ウォール街では、今年あと3回ある連邦公開市場委員会(FOMC)会合のうちの1回で25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)以上の利下げを排除しない示唆と解釈された。
米労働市場はかなり冷え込んできており、パウエル議長は同市場を支えるため「できることは何でもする」と発言。さらに「現在の政策金利水準は、労働市場の状況がさらに悪化するといった好ましくないリスクを含め、直面し得るあらゆるリスクに対応する余地を十分に与えている」と付け加えた。
結局のところ、インフレ時代に批判の嵐にさらされたパウエル氏は、再びリスク資産のトレーダーの味方となっている。
フェデレーテッド・ハーミーズのシニアポートフォリオマネジャー兼マルチアセット部門責任者であるスティーブ・チアバロン氏は「私はパウエル氏を称賛する立場にはないが、選択肢を残しておくという判断は非常に賢明だと思った」と述べた。8月の米雇用統計で非農業部門雇用者数が10万人に満たない場合、利下げ幅は「50ベーシスポイントが妥当だろう」とした。
ハト派的な政策転換への期待から、米クロス資産市場のパフォーマンスを測る「ブルームバーグ米国EQ:FI 60:40指数」は最高値を更新。過去8カ月間のうち7カ月で上昇し、年初来で12%上昇の方向にある。小型株の指数は過去2週間で6.5%上昇した。債券市場のボラティリティーの指標は、5月と7月の低水準は上回っているものの落ち着いている。
原題:Jerome Powell’s Pivot Fuels an All-Conquering Wall Street Rally(抜粋)
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