(ブルームバーグ):ケイティ・ラム氏は2018年に大学で何を専攻するかを決める際、法学部が将来のキャリアにおいて最も大きく扉を開くだろうと考えた。同氏は香港中文大学の法学部に合格し、大喜びした。
それから6年近くがたった今、香港では一流の法律事務所が閉鎖、外国人弁護士は香港を去り、リクルーターによれば研修生の受け入れも減少。見通しは暗くなっている。23歳のラム氏はパラリーガル(法律事務職員)として何とか仕事を得たが、弁護士という職業から完全に離れる卒業生も増えているようだ。
大型の新規株式公開(IPO)やM&A(企業の合併・買収)がまれになり、中国経済の低迷が長引く中、香港の法律事務所にとって重要な収入源は枯渇しつつある。加えて、データプライバシーを巡る懸念や中国による香港への支配が強まっていることに対する不安も、一部の事務所がシンガポールに拠点を移す一因となっている。国家安全維持法(国安法)が、法の支配に対する信頼を損ない、将来をさらに不透明なものにする懸念もある。
香港の法律業界の成長ペースはここ10年で最も遅い。事務弁護士が加入を義務付けられている香港律師会では、2023年の会員増はわずか90人にとどまり、20年の532人から83%も減少した。
香港では20年以降、フィラデルフィアにルーツを持つデチャートやシカゴを本拠とするウィンストン・アンド・ストローンなど、少なくとも16の法律事務所が撤退または閉鎖した。世界最大級の法律事務所であるDLAパイパーはオフィススペースを縮小し、メイヤー・ブラウンは香港事業を分離する準備をしていると、事情に詳しい関係者が今年に述べている。
香港大学法学部の非常勤教授であるリチャード・カレン氏は「リーガルハブとしての香港の地位は大きく変わった。中国を封じ込めようとする米国をはじめとする西側諸国の積極的なキャンペーンに巻き込まれ、国安法が焦点となっている」と話した。
香港政府は6月、香港の裁判所が国安法事件の判決において中国の中央政府や香港政府から政治的圧力を受けているという事実はないと発表した。
「香港が国際的な金融センターであり続けることができるのは、堅牢な法制度と多様な法曹界の人材からなる強力な法治を備えた安定した環境に負うところが大きい」と、律政司(司法省)は22日、質問に対し電子メールで回答した。国安法が「地元の機関、組織、個人の通常の業務や世界的な交流に影響を与えることはない」という。
とはいえ、律師会のデータによれば、外国人弁護士は香港を去っている。2023年に登録されたのはわずか1476人で、ピークだった19年の1688人から13%減少した。
2年間の研修期間を終えてアソシエートとして迎えられる若手弁護士の数も減少している。
人材紹介会社ロバート・ウォルターズの法務・コンプライアンス担当マネジャー、ジョニー・フイ氏(香港在勤)は「ジュニアレベルでは、定着率がおよそ25-30%低下している」と話す。定着率を上げるために、研修生を6カ月契約やローリング契約で雇用したりする事務所もあるという。
法務・コンプライアンス専門の人材コンサルタント会社であるルイス・サンダースのリポートによると、アジアの本部を香港からシンガポールに移す企業があることも一因となって、企業内での法務職も21年以降、減少している。
英国に拠点を置くある法律事務所のパートナーは、一部の法律事務所が撤退した理由の一つは国安法が施行された後、香港政府に顧客情報を開示せざるを得なくなることを懸念したためだと語った。
それでも、法廷弁護士の団体である香港大律師公会のビクター・ドーズ会長は、「ノンストップの拡大はあり得ない」と述べ、香港での取引件数の減少は世界的な傾向の一部だとし、「清算、リストラ、倒産を含む香港の紛争解決は、ここ数年増加している」と主張した。
香港国際仲裁センターのジョアン・ラウ事務局長は、香港の仲裁と調停は引き続き増えていると述べ、「香港の基本を見れば、洗練された法律、強力な司法、経験豊富な仲裁機関、そして活気に満ちた才能あるコミュニティーが存在し続けている」と語った。
就職活動
しかし、ラム氏や同級生が直面する就職難は、この業界の課題を象徴している。クラスで上位半分に入る成績を修め、法律関連のインターンシップを5回経験しても、正社員としての内定は得られなかった。
同じ香港中文大学卒のニコラス・チュウ氏(22)は、自身の年度は以前のクラスよりはるかに就職が難しいと語った。70人のクラスメートのうち、国際企業からフルタイムのオファーを受けたのはほんの一握りだったという。
同氏は、同級生の約20%が香港で弁護士として活動するための必須条件である法学大学院修了の資格を取らないと推測している。そうした学生は、海外に機会を求めたり、公務員や社内コンプライアンスでのキャリアを選んだりするかもしれない。
ブルームバーグがまとめたデータによると、この資格の申請者数は10年前の約1600人から、23-24年の学年では約1300人に減少した。この間に、法学部の学部学生の数は若干増えていることから、法曹界を離れるか別の場所で資格を取得することを選ぶ学生の割合が増えていることがうかがわれる。
「法学部の学生の数が増えている中で、専門職の資格を取ろうとしない学生がいるのは驚くことではない」とカレン氏は言う。「就職の難しさや資格取得にかかる費用を見て、他の道がないか見回している」のだという。
少なくともラム氏は、弁護士の道を捨てるつもりはない。数年以内に研修生として採用されることを期待しており、それまではパラリーガルとして働くつもりだ。
「規制機関で働くなど、他の選択肢も考えたが、5年も勉強した後で弁護士として働くことをあきらめたくはなかった」と同氏は述べた。
原題:HK’s Legal Exodus Leaves Law Students With Few Places to Go (1)(抜粋)
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