(ブルームバーグ):米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、主要政策金利を引き下げる時が来たと述べた。ここ数十年で最悪となったインフレを鈍化させるという仕事の完了を目指しつつ経済の力強さ保持に取り組む中、連邦公開市場委員会(FOMC)が9月に利下げを開始するとの見通しを裏付けたほか、労働市場のさらなる冷え込みを防ぐ意図を明確にした。
議長は23日、ワイオミング州ジャクソンホールで開かれているカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウムで講演。「政策を調整する時が来た。方向性は明確であり、利下げのタイミングとペースは今後入手するデータ、変動する見通し、そしてリスクバランスに左右される」と語った。議長の発言は事前に配布された原稿に基づく。
パウエル議長はまた、インフレ鈍化の面で最近進展が見られるとの認識も示した。「インフレ率が(当局目標である)2%への持続的な道筋をたどっているという確信を深めた」と述べた。
パウエル氏の発言は目先の金融市場に一定の明瞭さをもたらしたが、FOMCが9月会合後にどう動くかについてはほとんど手掛かりを与えなかった。
それでも今回の講演は2年に及ぶインフレとの闘いが重要な転換点に差し掛かっていることを裏付けている。労働市場はその大半において驚くほど堅調に推移し、FOMCにインフレ率を目標の2%へと引き下げる取り組みに粘り強く集中する余裕を与えた。
このインフレ鈍化の目標達成に向け、FOMCはこの1年間にわたり政策金利を約20年ぶり高水準となる5.25-5.5%のレンジに維持。経済全体の借り入れコストを押し上げた。
だがインフレ率が目標に近づくにつれ、労働市場にひび割れが生じ、高金利が経済の継続的な力強さを脅かすのではないかと一部の政策当局者は懸念している。7月の雇用統計も労働市場減速の警告シグナルだ。同統計は期待外れな内容となり、市場に動揺が広がった。
パウエル議長は「労働市場環境の一段の冷え込みは望みも歓迎もしない」と述べ、労働市場の減速は「明白だ」と付け加えた。
政策転換
FOMCは新型コロナウイルス禍の当時、インフレ率急上昇に対応する利上げが出遅れた経緯がある。今回のパウエル氏の発言は、物価上昇ペースが鈍化する中で政策ミスを繰り返したくないと当局者が考えていることを浮き彫りにしている。政策の成否次第で、経済のソフトランディングを達成できるかどうかが変わってくる。
パウエル議長は「われわれの目標は強い労働市場を維持しつつ、物価の安定を回復させることだ。インフレ期待の抑制がそこまで十分ではなかった過去のディスインフレ環境を特徴付けた失業率の急上昇を回避する必要がある」と指摘。「仕事は完了していないが、その成果に向けてかなりの前進はしている」と述べた。
今後の道筋
ただ今後の政策方針については疑問が残っており、パウエル氏もそれ以上に明確な道筋を示さなかった。
雇用統計が再び低調な内容となった場合、9月会合で通常より大きい50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げに動くのかどうかに投資家は注目している。また9月より先の利下げペースと大きさについて当局者がどう判断していくのかも重要な問題だ。
パウエル議長は「物価の安定に向けて一段と前進しながら、強い労働市場を支えるために全力を尽くす」と語った。
ゴールドマン・サックスのチーフエコノミスト、ヤン・ハッチウス氏は「パウエル議長は選択肢を残しておきたいのだ」と指摘。「データ次第だと議長は考えていると、私は捉えた。早まった判断をすれば、データが入手可能になった時に決断するためのハードルを上げることになる」と述べた。
原題:Powell Says ‘Time Has Come’ for Fed to Cut Interest Rates(抜粋)
(最終段落にエコノミストのコメントを追加し、更新します)
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