(写真:時事)

イトーヨーカ堂の店舗を譲受して「ロピアが北海道に進出する」という報道に続いて、4月には西友がイオンに札幌の全9店舗を売却する、というニュースが飛び込んできて、流通・小売業界は一気に騒がしくなっている。大手スーパーの西友をめぐり、いったい何が起こっているのか解説しよう。

西友が北海道、九州の店舗網を売却の背景

元々、北海道内のスーパーの売上高ランキングは、1位イオン北海道3396億円、2位コープさっぽろ3174億円、3位地場大手スーパーの連合体、アークス3116億円(道内6社合計)(2022年度、帝国データベース調べ)となっていて、ほぼ3強鼎立で激しい競争を繰り広げていた。この地域で西友の約260億円がイオンにいく、というインパクトは大きいのである。

そして、今度は西友の九州96店舗が、西日本でイオンとガチンコを繰り広げていることで知られるイズミ(ゆめタウン、ゆめマートなどを運営)に売却されると報じられると、九州方面にも騒ぎは波及した。

九州地区においても売り上げトップはイオン九州となっているが、イズミは域内で屈指、ゆめタウンという大型ショッピングモールを展開して九州、中四国ではイオンに拮抗する存在である。そのイズミが、西友の九州店舗約1000億円弱の売り上げを手中に入れることになれば、その存在感はこれまでにも増して大きくなる。西友の地域分割売却は、九州流通再編においても大きな影響を及ぼすのだ。

この2つのニュースが報じられると、北海道、九州のマスコミを中心に、「西友が北海道、九州から撤退!事業不振の背景は?」といった趣旨で盛り上がっていたが、本件のニュアンスは若干異なる。ウォルマートから大半の株式が投資ファンドKKRに売却されたときから、こうした分割譲渡が起こりうることは想定の範囲内であった。

西友の事業、店舗の見直しが進み、当該エリアにおいても収益性のメドがたってきたため、買い手がついたということなのではないか。なぜなら、西友の主たる株主であるファンドは、西友の企業価値を極大化して売却し、最大のキャピタルゲインを得ることが事業目的だから、である。

環境が整えば全体での事業売却も想定される

西友のプレスリリースによれば、この事業譲渡は、「西友がさらなる成長を目指すために策定した本州を基盤と位置付ける戦略推進の第一歩」であり、「今後はM&Aによる事業拡大も視野に入れながら、本州に経営資源を集中させ」るとしている。

確かに、西友の店舗網は北海道から九州まで広く展開しているが、よくみると北海道と九州は飛び地のようになっている。物流効率を考えれば、北海道と九州を分離すると、3大都市圏及び、南東北、長野県となり、かなり集約できることが見て取れる。会社では、今後さらなる分離売却は考えていない、としたうえで、今後は本州に経営資源を集中してさらなる成長を目指すという。

しかしながら、この趣旨は、あくまでも現時点において、ということであって、環境が整えば、分割のみならず全体での事業売却が想定される。ファンドにとっては、事業再構築が成り企業価値が上昇したときこそ、「売り時」だからである。

西友といえば、かつて国内屈指のスーパーとして名をはせたものの、2000年代初頭の小売業大再編期、属していたセゾングループが経営破綻に追い込まれたこともあり、世界最大の小売業ウォルマートの傘下に入っている。当時は、すわ黒船襲来と業界を震撼させたのだが、結果的には2021年にウォルマートが、株式の65%を投資ファンドであるKKRに、20%をネットスーパーで提携していた楽天グループに売却、事実上、日本から撤退となった。

その後、2023年には楽天は保有株式をKKRに売却したため、現在はKKR85%、ウォルマート15%という資本構成となっている。いずれにしても、西友は投資ファンドがその大半の株式を持っている会社だったのであり、それは西友がいつかは事業会社に売却されることになる、ということを意味する。

ファンドが小売業M&Aの買い手として登場の理由

ざっくりいえば、投資ファンドが、小売業M&Aの買い手として登場するのは、当該企業の店舗網を一括で買ってくれる事業会社がいなかった場合だと思えばいいだろう。スーパーを国内に全国展開している企業グループというと、実は、イオンかPPIH(ドン・キホーテの運営会社)ぐらいしかない。

つまり、限られた買い手候補と価格などの条件で合意できなければ、売ろうにも買い手不在となる、ということだ。一般的には物流効率の観点から、同じ地域か、隣接する地域の事業者しか買い手にはなり難い。そのため、店舗網を地域ごとに分割して、地域ごとに買い手を探して順番に売っていくということが必要になるのだが、それを業として引き受けるのが、投資ファンドなのである。

ファンドは株式の大半を保有することで、企業としての西友の経営権を握り、ファンドが選んだ経営陣によって、事業が高収益を産み出す事業構造に変えていく。このためにKKRは敏腕経営者として名高い大久保恒夫社長を招聘したのである。

また、小売店舗としての活性化ができない物件に関しては、他業態や他業種に譲渡するなどして、収益を生む店舗だけを残して再構築していく。この結果、西友の業績は、2023年2月期には売上高6647億円、経常利益270億円(経常利益率4%)となり、国内の有力スーパーとしての存在感を回復したのである。

北海道、九州の事業に関しても、詳しい開示はないものの、イオンやイズミが買う価値があると判断する事業に再構築されたのであり、遠隔地ということもあり優先的にエグジットしたのだろう。

残っている本州事業についても相応の収益性となっていることが想像されるが、物流効率改善や事業改善、M&Aによってさらに収益性を改善できる(企業価値を上げる余地がある)という見通しがあるため、今はまだ売却の時期ではないと判断されているということだ。

これから西友はどうなっていくのか

ここから、今後の西友の行方について妄想してみよう。北海道と九州を売却した後の店舗網をみてみると、南東北、長野は市場性、物流効率からは分離が望ましいようにみえる。現に、セブン&アイのイトーヨーカ堂再構築においては、東北、信州は撤退の対象となったことは記憶に新しいはずだ。

ただ、南東北、長野といった地域での展開に事業シナジーを生み出せる小売プレイヤーは北海道、九州以上に限定的で、合意に至るためには時間が必要かもしれない。やはり、主としては、本丸となる3大都市圏の収益性のさらなる改善に努め、京阪神、中京、首都圏といった分割も視野に入れた交渉を進めることになる。マーケットの規模も大きく、人口減少度も低いこの地域における買い手は数多く存在しているだろう。

北海道、九州を除いた西友の売り上げは5400億円、店舗数では関東に半数以上の135店が集中しており、売り上げではそれ以上の数字を稼いでいると考えられる。この関東の店舗網がどこに行くのかで、業界における覇権を決める首都圏の陣取り合戦の成否が決まることになる。

次の表は関東の主要スーパーの売上を示しているが、西友の売上3~4千億円が業界地図を大きく左右する存在であることはわかるだろう。西友の業績回復を機に、業界の首都圏争奪戦は水面下で本格化するのである。

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