(ブルームバーグ):日本銀行の追加利上げ決定などをきっかけに、為替相場では急激に円高方向への巻き戻しが進んだ。一時は1ドル=160円を突破した円安水準を享受してきた国内大手企業にとっては保守的な想定為替レートに現実が追いつき利益面の押し上げ要因がはく落したほか、北米市場の変調もあって各社の通期業績見通しには不透明感が高まっている。

急速な為替変動を背景に各社の通期想定レートはまちまちとなった。マツダは7日、150円と従来から7円円安方向に修正。7月末以降、大きく円高方向に振れたドル円相場と逆行する動きとなる。今期(2025年3月期)の業績見通しは据え置いたが、期末に向けて為替レートが想定を超える円高水準で推移すれば収益の押し下げ要因となる。

日産のロゴ

日産自動車も1ドル=155円と前回予想から10円円安方向に修正。一方、ホンダの藤村英司最高財務責任者(CFO)は1ドル=140円から145円に見直す考えもあったが、急速な円高を受け決算発表前日に据え置くと決めたと明らかにした。トヨタも145円に据え置いた。

急激な為替変動で先行きを見通しづらくなるだけでなく、米国の景気見通しの急速な悪化という懸念も持ち上がる。日本の自動車メーカーにとって、北米市場は昨年ごろから売上高拡大のけん引役を果たしてきた。ただ、膨らむ販売奨励金(インセンティブ)を円安で補ってきた面もある。自動車の購入意欲が減退した場合、奨励金をさらに積む必要が出てくる可能性もあるが、円安の恩恵が縮小する局面ではコスト増に直結する。

すでに日産は、4-6月期(第1四半期)の北米の営業損益が前年同期の1320億円の黒字から209億円の赤字に転落し、建て直しを迫られている。トヨタも北米の営業利益が1007億円と前年同期に比べ225億円減少した。

マツダの藤本哲也専務は7日の決算会見で、「過剰なインセンティブを打つことはないし、在庫とか競合をしっかりみながらバランスの取れたコントロールをする」と気を引き締める。

ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生アナリストは、自動車メーカーの場合、為替が円高に振れた場合は現地で販売する車を値上げする必要が出てくると指摘。ただインフレなどで既に価格水準は高止まりしており、値上げ余力があるところとそうでないところで「メーカー間の優勝劣敗がくっきり出る」と述べた。

極めて予測し難い

為替の巻き戻しの影響は自動車以外の業界にも及んでいる。川崎汽船の山鹿徳昌専務はドルが円に対して1円円高方向に動くごとに約16億円の収支の悪化要素となり、短期間の過度な振れは好ましくないとコメント。その上で下期も140円と為替前提を置いているため足元のレートではまだ余裕があるが、急激な為替の変動でさまざまな財務影響が出てくるため、注視しながら運営をしていきたいと述べた。

TDKは期初の1ドル=140円の為替見通しを据え置いた。山西哲司副社長は円高方向への動きも踏まえて、ヘッジについても検討しながら進めていく方針だとした。

「予測は分からないというか極めて予測し難い」。商船三井の濱崎和也CFOは7月31日、日銀が追加利上げを決めた直後の決算会見で、日米の金利差が縮まることで円高方向に行く可能性もあるが、予見することは難しく「われわれとして悩んだところで実勢である150円を使おうということで決めた」と内情を明かした。

ソニーグループの十時裕樹社長は7日の決算説明会で、米国の消費が世界景気をけん引しており、「われわれの事業で一番気にしなくてはいけないのは米国経済、とりわけ消費の動向」だと言及。既に景気減速のシグナルが出ており、「これがどのくらいの深さや長さになるのかというところはなかなか見通しが難しいが注意深く見守っていきたい」とする。想定為替レートは1ドル=145円前後から148円前後に見直した。

明るい未来見えず

11月に予定されている大統領選の行く末も不透明要因となっている。トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、保護主義的な貿易政策を講じる可能性が高まるほか、気候変動対策で大幅な後退が予想され化石燃料を強化する方針に転じるとみる向きもある。

商船三井の濱崎氏は、荷主がトランプ氏の勝利に備えて、「対中国の関税が上がるということでその前に出荷してしまおうという駆け込み出荷が多い」と話した。

コマツの堀越健専務は、全体的にはどちらが勝ってもそれほど大きな影響はないものの、エネルギー分野については共和党の方が建機需要についてはよりポジティブな影響があると考えているとの見方を示した。

ハリス氏にしろ、トランプ氏にしろ明るい未来が見えないとするのは、中外製薬の奥田修社長だ。奥田氏は民主党・共和党のいずれの候補が大統領になったとしても「医薬品に対してポジティブな風は吹いてきそうにない」とした。

--取材協力:エディ・ダン.

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