(ブルームバーグ):グローバル投資家にとって今年に入り最も信頼できる株式市場の一つだった日本株が予想外の暴落に見舞われ、わずか2日間で世界で最も損失を被った市場に転落した。

東証株価指数(TOPIX)は2日の取引で6.1%急落し、前日の下げと合わせた2営業日の下落率は9.2%と東日本大震災と福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故が起きた2011年3月15日(16%)以来の大きさを記録。ブルームバーグのデータで同期間の世界の主要92指数のリターンランキングを見ると、8.2%安の日経平均株価と共にワーストパフォーマーとなっている。

7月31日に日本銀行が追加利上げを決定し、植田和男総裁がタカ派的なメッセージを発したことで超低金利を背景にしたリスクオン相場が逆回転し始め、この間だけで約89兆円の時価総額を失った。日銀の金融政策決定会合まで日本株は安定的に推移していた上、金利スワップ市場の動きや事前の報道から株式市場で利上げの可能性が意識されていたことを踏まえれば、今回の暴落は異様な光景だ。

市場関係者の間では暴落に導いた悪役として、円相場が対ドルで150円の節目を突破する円高の加速やマクロ系ヘッジファンドによる日本株売り・米国株買い、ボラティリティーの急変動を受けた商品投資顧問(CTA)によるポジション解消の可能性などが指摘されている。

三菱UFJアセットマネジメントの石金淳チーフファンドマネジャーは「ここまで下がるとは想定していなかった」と本音を漏らし、「一時的かもしれないが、日本株は最悪の状況だ」と述べた。

日本は数十年にわたりデフレ経済に悩まされてきたが、足元は世界的な物価高の影響でインフレ経済に本格的に転換できるかどうかの過渡期だ。その中で日銀が金融政策の正常化に動き、金利を引き上げているため、超低金利の恩恵を長年受けてきた日本株や不動産などリスク資産の価格は波乱に見舞われやすくなっている。また、金利上昇を受けて円相場が上昇しており、今年の日本株高をリードしてきた輸出関連企業の収益が今後悪化する可能性は否定できない。

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの小林千紗日本株ストラテジストは、「ドル・円がどこに行くか、皆疑心暗鬼になっている」と言う。今週の円相場は対ドル一時148円台半ばと4カ月半ぶりの高値を付け、2日の日本株市場ではトヨタ自動車や日立製作所など日本を代表する輸出関連企業が軒並み急落した。アムンディとTDセキュリティーズでは、円は140円まで上昇する可能性を予測している。

インベスコ・アセット・マネジメントの木下智夫グローバル・マーケット・ストラテジストは、円高の影響は1日までの日本株相場に十分に織り込まれていなかったが、ここへきて投資家は「日銀のタカ派的な姿勢をより強く意識するようになった」とみている。

東証33業種で過去2営業日の下落率上位に並んだのは、株式相場の暴落で投資家離れが警戒された証券株のほか、景気後退の影響が懸念される商社や電機、機械株、金利上昇による取引量の減少リスクがある不動産株など。金利上昇で利ざや拡大の恩恵を受けるはずの銀行株も11%下げた。

市場では想定外の暴落について、これまで日本株に対し買い向かっていた投資家のアンワインド(巻き戻し)など需給的要素を指摘する声が多く聞かれている。オルタス・アドバイザーズの日本株戦略責任者、アンドリュー・ジャクソン氏は「強制的に売らされたように見える」と語った。

JPモルガン証券の高田将成クオンツストラテジストは「暴力的なモメンタムプレーの逆回転を受け、CTAを筆頭にデルタロングに傾斜していた投資家は『複雑骨折』に至っている」と分析。野村証券の須田吉貴クロスアセット・ストラテジストは、主に米国と欧州のマクロファンドは日本株をショート(売り持ち)する一方、米国株のロング(買い持ち)ポジションを積み上げていると推計した。

日本取引所グループのデータによると、海外投資家は7月第4週(22-26日)に現物と先物を合わせ日本株を差し引き1兆5600億円売り越し、売越額は昨年9月以来の大きさとなった。野村証の須田氏によると、2日の大幅安も海外勢の売りが主因だったと話した。

また、インベスコの木下氏は、これまでの株高で利益を得ていた個人投資家もショック売りに転じており、「個人のセンチメントもかなり大きく悪化する形で、全面的な下落につながった」と受け止めている。

東洋証券の大塚竜太ストラテジストは「市場は短期的には明らかに弱気に転じており、米中経済への懸念から日本株の中期的なトレンドが変わり始めている可能性がある」と警戒感を示す。

--取材協力:我妻綾横山桃花.

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