円安が止まりません。日本の通貨当局は、注目されたG20など一連の国際金融会議で、韓国を味方につける「奇策」まで繰り出したものの、国際的なドル高懸念の共有には至らず、手詰まり感が浮き彫りになっています。

日米韓の財務相が異例の共同声明

日米韓3か国の財務相は17日、ワシントンで初めて会合を行いました。この3か国財務相会合は、2023年の日米韓の首脳会合で開催が決まったものです。

そもそもの目的は、ロシアや北朝鮮に対する経済制裁で足並みを揃えると共に、インド太平洋地域のサプライチェーンの強化などでしたが、その共同声明に、いわば場違いな、為替に関する一文がありました。

共同声明は「我々は、最近の急速な円安やウォン安についての日韓両国の深刻な懸念を認識し、外国為替市場の動向について、引き続き、緊密に協議していく」と表明しました。「我々」とは3か国の財務相のこと、つまりアメリカも主語に入っています。

驚きの1つは、「円安、ウォン安」とはっきり書いてあることです。為替に関するこの種の声明は、「最近の為替市場の急激な変動」といった表現に留めるのが通常で、安くなった通貨を名指しするのは異例です。また、「円安、ウォン安」と通貨を2つ上げたことで、裏側にあるドル高にも、暗に言及したことになります。

国際通貨ではないウォンを引き合いに

もう1つの驚きは、国際通貨である円と、G7にすら入っていない韓国の通貨ウォンを並列で扱ったことです。ユーロ誕生以前の、円がドルに次ぐ国際通貨であった時代を知っている世代としては、ここまでやらなければいけないのか、と思わずにはいられませんでした。

鈴木俊一財務大臣は、この声明を画期的なことと自画自賛しました。今、自国通貨安、裏を返せばドル高に困っているのは日本だけではないこと、そしてアメリカもその懸念を共有していると、はっきり市場に知らしめた、と言いたいのでしょう。

しかし、逆を言えば、国際通貨でもないウォン安まで持ち出さなければならないほど、日本の通貨当局は手詰まりに陥っていることを、浮き彫りにしたとも言えます。

突然の3か国声明に為替市場では、介入警戒感から一瞬、円高に振れたものの、すぐにまた、154円台に戻ってしまいました。異例の声明も全く力不足でした。

G7とG20でも新たな合意なく

日米韓会合に続いて開かれたG7財務相会議では、共同声明に「2017年5月の為替相場についてのコミットメントを再確認する」との文言が盛り込まれました。これは「過度な変動や無秩序な動きは、経済・金融の安定に悪影響を与える」との認識を改めて確認しただけで、特段の新たな合意ではありませんでした。

その後のG20財務相会議も、新興国から、ドル高への懸念が表明されただけで、共同声明すらまとめられませんでした。一連の国際金融会議で、各国とドル高懸念を共有したいという、日本政府の淡い期待は、期待のままに終わりました。

ドル高は「アメリカ一強」の反映

日本の通貨当局が、ドル高懸念の「国際的共有」に期待するのは、それ以外、円安を止める手立てが、なかなかないからです。

今回の一段の円安局面は、アメリカの物価や雇用の指標が強く、「6月の利下げ開始」というこれまでのメインシナリオが崩れたことが、最大の理由です。アメリカの金利高が続けば、引き続きドルが強いことは、経済のファンダメンタルズに沿った動きと言えるでしょう。

市場介入は乾坤一擲のタイミングで

そうした中で、日本の通貨当局が円買いドル売りの市場介入を行ったところで、5円程度しか押し戻せないだろうという見方が、市場では支配的です。

そもそも、円買いドル売り介入は、日本政府の持つアメリカ国債を売らなければ実施できないので、そうそうは実施できません。1回の失敗も許されないのです。

財務省としては、アメリカの金利の先高観が少し落ち着くのを待ち、国際的なドル高懸念ムードを味方につけた上で、乾坤一擲の市場介入に踏み切るタイミングを見極めているとみられます。

「日本は円安ウエルカム」と思われてしまった

アメリカのドルがここまで強いのは、コロナ禍からのアメリカ経済の回復が際立って強いという理由があります。

そうした中でも、主要通貨の中で日本円が際立って弱いのは、異常な金融緩和をここまで長引かせたという日本固有の理由があります。そして、その間に、世界の投資家や市場関係者には、「日本は円安ウエルカム、円安容認」だというパーセプション(認識)が擦り込まれたことも大きいように思います。

それは、「円安は企業業績と株価を上げるから、大いに結構」というメッセージを発し続けたツケでもあります。

かつてのような、強い経済ではなくなった日本は、「通貨安は、その国の信用を毀損する」という当たり前のことを、胸に刻むべき時なのかもしれません。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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