中野晴啓(なかの はるひろ)/なかのアセットマネジメント社長。1987年クレディセゾン入社。2006年社内ベンチャーとしてセゾン投信設立。2007年社長、2020年会長CEOに就任し、2023年6月に退任。2023年9月なかのアセットマネジメント設立(写真:編集部撮影)「積立王子」の愛称で、長期・積立・分散投資の普及に努めてきた中野晴啓氏が、セゾン投信の会長を追われておよそ1年。新たに立ち上げた「なかのアセットマネジメント」が2本の株式型アクティブファンドの運用を開始する。運用開始日が4月25日に迫る中、新会社に懸ける思いや日本の資産運用業界の課題について語った。

※本記事は2024年4月21日6:00まで無料で全文をご覧いただけます。それ以降は有料会員限定となります。

――セゾン投信の解任劇から1年、この日をどのような思いで迎えていますか。

いろんな思いがくすぶっていたが、セゾン投信を追い出されたことで、結果として自分の理想を実現できる資産運用会社をつくれたと思っている。

セゾン投信を追われ、最初にスパークス・グループ社長の阿部修平さんを訪問した時、新たに運用会社をつくるなら「お金は全部出す」と言っていただいた。だが、資本をすべて出してもらうことになると、会社の運営がスパークスの意向に左右されてしまう。

新たに運用会社を立ち上げるなら、特定の株主の意向に左右されない顧客本位の会社をつくりたかった。調達資本10億8250万円に対して私の出資額は4000万円だが、議決権は私が50%強を持っている。

株主からいただいた資金は「応援資本」という性格のもの。最初は不安だらけだったが、理想的な資本政策でスタートラインに立つことができた。

アクティブファンドこそ中心に

――運用する2本の投資信託はいずれも国内株、海外株の株式型アクティブファンドです。販売する投信をこのラインナップにした理由は。

日本だけではなく世界的に株価指数などと連動する運用成績を目指すインデックスファンドが人気だが、今の資産運用業界で真に求められているのは本格的なアクティブファンドだ。

日本が標榜する「資産運用立国」を実現するには、企業に投資したお金が効率的に家計に還元されるインベストメントチェーンをしっかりと回す必要がある。そのためには運用会社がきちんと「銘柄選択」して、顧客から預かった資金を生産性の高い企業へ効果的に注入していくことが肝要だ。こうした投資はインデックスファンドにはできない。

運用会社のもう一つの使命である「エンゲージメント」でも、インデックスファンドは議決権行使基準に基づいて一部議案に反対するようになっているが、投資先企業との対話を本気でやっているとは思えない。

政府は国際金融都市や資産運用立国の実現に向けて、外資系の運用会社を積極的に呼び込もうとしているが、外資系にインベストメントチェーンを回す役割を期待するのは難しいだろう。外資系は日本に愛情があるから来るわけではなく、儲かる機会を嗅ぎ取って進出するにすぎない。

セゾン投信時代に組んでいたバンガードが日本から撤退する際、私にこう言った。「われわれはアメリカ人のための会社です。アメリカ人を幸せにするために来たので、日本人は関係ありません」と。

資産運用業界の中心的存在にならなければいけないのは、日本発の本格的な銘柄選択型アクティブファンドであり、金融庁も産業資本の供給機能としてアクティブファンドを育てなければいけないという問題意識を強めている。

セゾン投信でも2022年に「セゾン共創日本ファンド」というアクティブファンドを設定したが、今回はそれのやり直し。むしろ、銘柄選択やエンゲージメントをより強化する本格的なアクティブファンドだ。

楽天証券での販売、直販の代替に

――セゾン投信時代は販売会社を通さない直接販売にこだわってきました。新会社ではどのように販売していきますか。

私は今でも顧客と直接つながれる直販が大好きだが、今年から始まった新たなNISA制度により、直販が合理的なものではなくなってしまった。NISA口座を1人1つしか持てないので、大半の人はファンド数が少ない直販の会社でNISA口座を開設したがらない。直販という仕組みは賞味期限を迎えたと思っている。

とはいえ、販売会社経由で売っていく仕組みの中でも、直販に近い価値をつくっていくことにこだわりたい。

販売会社の位置づけは、私がこだわってきた直販機能の代替と考えており、はっきり言えば一生懸命に売ってもらう機能は要らない。私たちの理念に共感して顧客がアプローチしてきてくれればいい。そう考えるとネット販売が一番ふさわしい。そこで楽天証券を販売会社として選択した。

対面販売を否定はしないが、深く強い共感がないと、われわれが納得できる長期投資のお金は集まってこない。販売会社の選定についても、われわれの考え方に共感してもらえるところに限定したい。

――目標とする預かり資産残高や顧客への運用リターンをどのように設定していますか。

預かり資産残高の目標は設定していない。お金を集めることを目的にすると、どんなお金でもよくなってしまう。われわれの理念に共感していただける人を1人でも増やすことだけに注力する。

顧客への運用リターンとしては、年率6~7%の利回りを長期的に実現したい。インフレが進むことで目覚ましい運用成果を上げるアクティブファンドが出てくると思うが、大風呂敷を広げることなく、株式運用のまっとうな期待リターンをきちんと確保したい。

――投信の運用管理コストである信託報酬は何%で設定していますか。

アクティブファンドの信託報酬は、いずれも税抜きで日本株が1%、世界株は1.2%。高い報酬をもらうつもりはないが、安売りもしない。本格的なアクティブファンドを健全かつ長期にわたって運営していくために高いレベルでプロの仕事をするので、必要なコストをいただく。

これは信託報酬を廉価に設定しているインデックスファンドへのアンチテーゼでもある。合理的で適切な報酬をいただくことは、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を果たすうえでも重要なことだ。ただし、運用残高が大きくなれば収益も大きくなるので、その際はさまざまなかたちで顧客に還元していきたい。

「一者計算」で数千万円のコスト減

――投信の基準価格の計算に国内公募投信で初めて「一者計算」を採用しています。

コストの削減効果は毎年数千万円に及ぶ。投信計理(投資信託の会計)は誰でもできる仕事ではなく、経験やスキルが求められるので人件費が高い。1人だけ雇っても休みが取れないので、小規模な運用会社でも複数人の投信計理スタッフが必要だ。信託銀行のみが基準価格を計算する一者計算の採用によって、運用会社側で人件費を中心とする管理コストを削減できれば、その効果を顧客に還元することができる。

日本独自の商習慣でもある二重計算は、これまで海外投資家から「非効率な実務」として指摘されてきた。一者計算の採用は、資産運用立国実現プラン(2023年12月発表)でも示された業界の課題でもある。大手運用会社は実務面で大幅な見直しを伴うためすぐには進めづらいが、われわれは新しい会社なので一者計算を採用することができた。

中野氏は「インデックスファンドだけで日本の資本市場が高度化するわけがない」と警鐘を鳴らす(写真:編集部撮影)

――日本の資産運用業界で新規参入が限定的だった背景として、日本独自のビジネス慣行が指摘されてきました。今回、どういった点に参入障壁を感じましたか。

まず運用開始に至るまでの時間が長すぎることだ。

会社を立ち上げてファンドマネジャーやコンプライアンス担当者も決めて、その経験などを詳しく記入した書類ができてようやく申請を受け付けてくれる。会社をつくってからファンドの運用開始までに10カ月程度はかかる。

その準備期間中もファンドマネジャーなどに給料を払わなければならないから、あっという間に資金がなくなる。今回11億円近い資本を調達したが、これは決して過剰な額ではない。

金融当局が大手の傘下にある運用会社の新規参入しか想定していなかったので、いまだにこうした制度運用になっている。資産運用立国実現プランは、国内外からの新規参入による競争の促進を掲げているが、時間軸の問題を解消しなければ新規の参入は今後も難しいだろう。

運用部門と管理部門をフルラインナップでそろえなければならないことも、参入に当たっての重荷だった。規制緩和によって管理業務を完全に外出しできる規制緩和が検討されているようだが、これが実現されれば体制整備の面でかなり楽になるはずだ。

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