滋賀県の家電製造拠点。国内家電の黎明期から市場の成長を見守ってきた(記者撮影)

国内家電で最大手のパナソニック ホールディングスが、家電のプライベートブランド(PB)向けの受託製造への参入を検討している。グループ内で家電事業を手がける、パナソニック社の宮地晋治執行役員が東洋経済の取材で明らかにした。

具体的な販売チャネルや参入時期は未定としているが、水面下で複数の小売店などに「ヒアリングをしている」(宮地氏)。パナソニックがこれまで苦手としてきた低価格帯で他社ブランドの受託製造を行い、国内市場での実質的なシェアを高めるのが狙いだ。

国内の家電市場は頭打ち

背景には、頭打ちとなっている国内家電市場の現状と、相次いで参入する中国系メーカーとの熾烈な価格競争がある。パナソニック社の堂埜茂副社長は「このまま放置しては危うい。価格競争から逃げず、競争体質にする」と危機感をあらわにする。

国内は人口減少に伴い、家電市場の成長は見込みづらい。新型コロナが蔓延した2020年度以降は巣ごもり需要により家電の販売が一時的に拡大したものの、その後は停滞している。パナソニックの家電部門も3期連続で減益に沈み、市場全体の閉塞感は明らかだ。

日本の家電王者であるパナソニックは、これまでも飽和市場への対抗策を打ち出してきた。2020年には「新販売スキーム」を掲げ、その目玉として指定価格制度を導入。これはメーカーが在庫リスクを負う代わりに、量販店などで販売される際の価格を決められる制度だ。

従来は年末などの商戦ごとに値引きが行われ、モデルチェンジの直前には発売時価格の3~4割引きで販売されていた。この制度が導入されたことで過度な値引きを抑制することができるようになり、メーカーと量販店の双方で利益率が改善した。

洗濯機や掃除機で高いシェアを持つ日立製作所も、一部製品で指定価格制度を導入するなど裾野は少しずつ広がりつつある。一方で課題もある。とくに難しいのが価格設定だ。

ドラム式洗濯乾燥機を見ると、パナソニックが最上位モデルを30万円超で展開する中、東芝ブランドの美的やシャープは同クラスのモデルを20万円台前半まで値下げした(いずれも2023年度第4四半期の実勢価格)。パナソニックは価格競争に参加しなかったことで、結果として売り上げを落とした。

中国メーカーが日本家電を次々買収

パナソニックは2つの対策を講じる。1つは冒頭で触れたプライベートブランドの製造受託だ。家電量販店などでパナソニックのブランドを冠しない格安の白物家電を展開し、販売数量を稼ぐ。

ライバルは国内勢にとどまず、中国系を中心に進出が相次いでいる。2011年に中国ハイアールが旧三洋電機の家電事業を買収したことを皮切りに、2016年にはシャープが台湾の鴻海傘下に入った。同じ2016年には東芝も白物家電事業を中国の美的集団に売却。日立も現在、外資含むパートナー先を探している。

家電製品の製造では、数量が増えるほどコスト競争力が高まる規模の経済が働く。中国系メーカーに市場が席巻される前に、パナソニックは先手を打って国内の低価格帯市場を取り込むことで、事業規模を高める狙いがある。

2つ目の施策は、中国で得たノウハウの活用だ。低価格帯向けの製品では、中国向けに展開しているモデルの国内流用も検討する。国内市場以上に競争環境が厳しい中国で磨いてきたモデルで、価格競争力を高める。

また、パナソニックブランドの製品では、余分な機能を廃し、パナソニック独自の先進機能に絞り込んでいくことで製造コストを下げる。中国系のメーカーが値下げをしてきた場合には、指定価格制度の対象製品でも機動的な値下げを行えるようなコスト体質にするのが目的だ。

中国勢が日本市場を虎視眈々と狙う

欧米や東南アジアで高いシェアを誇る、韓国のサムスン電子やLGエレクトロニクスは日本で本格展開はしていないが、中国メーカーとの競争は今後5年間で過熱する可能性が高い。

美的集団は今年2月に都内でイベントを開催し、タレントの谷まりあ氏を起用したマーケティング戦略で、冷蔵庫や洗濯機など白物家電を本格展開すると発表した。

日本ではスマートフォンの販売が中心の中国シャオミも、日本国内での家電展開に意欲を示している。昨年9月に開いたイベントで、日本法人の社長に就任した大沼彰氏は「家電の展開も考えていきたい」と意気込みを語った。大沼氏はパナソニックモバイルコミュニケーションズ出身で、サムスン電子ジャパンやHTC NIPPONなどを渡り歩いてきた人物だ。

さらにパナソニックは新たな施策も打ち出す。4月10日に都内で開いたメディア向けイベントで、初期不良品やサブスク利用から戻ってきた製品を清掃・点検して販売する新たな取り組みを発表した。

冷蔵庫や洗濯機、テレビなどの大物家電から、ヘアドライヤーなどの小物家電まで再生品のラインナップは幅広い(記者撮影)

この取り組みでは新販売スキームで売れ残った製品なども含め、指定価格の約2割引で家電製品を直販する。余剰在庫の受け皿としての狙いもあるが、一連の取り組みで最終的に目指すのはエコシステムの構築だ。

小売店との連携をどう深めるか

再生品の販売では、経済産業省が掲げる「成長志向型の資源自律経済戦略」を意識した。「今後も国内の家電市場を持続可能にするためには、政府や自治体との連携が不可欠」(宮地氏)との考えだ。

これからPBを本格展開するとなれば、小売店との連携もさらに緊密にしていく必要がある。とはいえ仲間作りはまだこれからの段階。国内トップとして、名と実の両方を守るべく腹をくくったパナソニック。家電でブチ上げた全方位戦略が、動き出そうとしている。

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