(ブルームバーグ): バンス米上院議員(オハイオ州)はかつてトランプ前米大統領を「米国のヒトラー」と呼び、「文化的なヘロイン」に例えた。そのバンス氏が15日、トランプ氏と共に11月の大統領選に挑む副大統領候補に指名された。

  これはトランプ氏の支持基盤に配慮して入念に計算された巧みな人選だ。

  数多くの候補者の中からバンス氏を選んだことは、トランプ氏がたとえ穏健派や無党派層離れを招いたとしたとしても、自身のスローガン「米国を再び偉大に(Make America Great Again=MAGA)」に共鳴する熱狂的支持者の票固めを目指していることを示している。バンス氏は時にトランプ氏よりも厳しく過激な発言を行い、より極端な立場を取る。

  バンス氏は39歳と、78歳のトランプ氏より約40歳若い。やがてはMAGA運動の精力的な後継者になるだろう。またバンス氏の副大統領候補指名はMAGA運動がトランプ氏の任期中にとどまらず、米国の未来をも塗り替えるとの明確なメッセージでもある。

  こうした未来には、暗たんたる思いしかいない。果てしない野心を持つバンス氏はまだ1年生議員であり、政治経験は乏しいものの、機を見るのに極めてたけている。このためトランプ氏は当選したとしてもホワイトハウスにいる4年間、裏切りを警戒しなければならないだろう。

  これまでのところバンス氏の議員としての振る舞いからは思慮深さはうかがえない。トランプ氏の暗殺未遂事件が起きた13日、バンス氏はバイデン陣営が選挙戦で展開するトランプ氏批判がこの事件を招いたと非難した。副大統領候補と目された人物でこのような非難を行ったのはバンス氏だけだった。

  バンス氏の主張を裏付ける証拠はなく、実際、当局が特定した20歳の容疑者は共和党員として有権者登録をしていた。

  バンス氏は2016年に出版した自伝「ヒルビリー・エレジー」で、中西部アパラチア地方の家族のルーツをたどるとともに、貧しい白人労働者階級の問題や格差拡大を描き、一躍有名になった。

  この本はトランプ氏が政治的に必要な時に言及する「忘れられた人々」を取り上げたものだった。当時、バンス氏はトランプ氏について現在と異なる見方をしており「有害」で「非難に値する」と激しく批判した。

  しかし、バンス氏は18年ごろに突然、トランプ氏批判をやめた。その後間もなくMAGAに賛同し、トランプ氏の信奉者となった。その理由はすぐに明らかになった。バンス氏は上院議員選に立候補するため、トランプ氏の支持を必要としていたのだった。

  屈辱的な言葉を通過儀礼とするトランプ氏は22年の集会でバンス氏について、「私にこびへつらっている。私の支持を何としても欲しいのだ」と語った。これに耐えたバンス氏はトランプ氏の支持を得た。

  それ以来、バンス氏はトランプ氏の献身的な側近であり続けている。トランプ氏と同じく、親イスラエル・反ウクライナの立場であり、保護主義的な関税賦課を支持している。

  バンス氏の取りえは柔軟性であり、気まぐれなトランプ氏に合わせつつ目的達成に最も適した道を探っていくとみられる。

  バンス氏の起用がMAGA支持者らにアピールしているのは明らかだ。トランプ氏が自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で同氏を副大統領候補に選んだと明らかにすると、トランプ政権復活を想定した政権移行構想「プロジェクト2025」を立案した保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のケビン・ロバーツ氏は直ちに好意的な反応を示した。

  「われわれは本当に彼を応援していた。これほどうれしいことはない」と同氏はブルームバーグのコラムニスト、メアリー・エレン・クラス氏に伝えた。

(パトリシア・ロペス氏はブルームバーグ・オピニオンの政治・政策担当コラムニストです。ミネアポリス・スター・トリビューン紙でシニア政治エディター・記者として働き、編集委員も務めました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:JD Vance Is Red Meat for Trump’s MAGA Base: Patricia Lopez(抜粋)

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