(ブルームバーグ): トランプ前大統領を狙った銃撃事件は、容疑者の動機を探る段階に入った。白人男性のトーマス・マシュー・クルックス容疑者(20歳)は何を考えていたのか。イデオロギーに突き動かされた過激派だったのか。映画の主人公をまねた、精神的に不安定な一匹おおかみか。失職したばかりの不満を銃で何かにぶつけたかったのか。なぜ土曜の夜にトランプ氏を撃ったのか。
いずれの質問も大規模な銃撃事件が起きた後にはよく聞かれるものだ。そしてこれは全く的を射ていない質問でもある。米国の人口は3億4000万人。誰もが事実上、上記の大まかな分類のどれかには当てはまるだろう。
米連邦捜査局(FBI)が銃撃犯に特定したペンシルベニア州ベセルパークのクルックス容疑者が、他の米国人と違う点はただ一つ。自ら抱える問題に対して装填(そうてん)された銃を用い、混乱を暴力の頂点に導いたことだ。クルックス容疑者は政治集会に半自動ライフルを携行し、その火器本来の目的に使用した。約150メートルの距離から発射された銃弾はトランプ氏をかすめただけでなく、結果的に1人が死亡、2人が重傷を負った。
クルックス容疑者の狙撃の腕がそれ以上でなかったことは幸いだった。でなければトランプ氏は生きてなかったからだ。もっと腕が良い狙撃手なら、耳をかすめる以上の事態になっていたかもしれない。しかしクルックス容疑者でさえ、命中の確率を高める方法はあった。米連邦最高裁判所の判断からヒントを得て、急速連射を可能にする「バンプストック」を銃に装着していたかもしれない。2017年にラスベガスで起きた銃乱射事件でバンプストックが使用されていたことを受けて、トランプ政権はバンプストックを禁止したが、今年6月、最高裁はこの禁止は誤りだったと判断、バンプストックの使用に太鼓判を押した。
バンプストックは半自動小銃を全自動式(フルオート)並みの速度で連射できるようにする装置だ。ラスベガスの銃撃事件では犯人が数分のうちに推定1000発を群衆に撃ち込み、58人を殺害し、数百人を負傷させた。
バンプストックはより多く、より早く、人を射殺できるようにする以外に目的はない。しかし最高裁と共和党は米国民に極めて効率的な大量殺人マシンを購入・所有することを奨励し、銃メーカーにはさらに殺傷能力の強い銃を作るよう勧めていながら、その理由を説明できていない。裁判所の意見書や共和党議員らの発言を多く読んできた者として報告すると、彼らの根拠には規律ある民兵(米憲法修正第2条の文言の一部)との関連性はない。しかし権利や安全についてよく指摘される根拠は無意味であることが、繰り返し露呈されてきた。殺人を可能にすることが権利を守ることにはならない。一般市民を危険にさらすことは、安全を高めることにはならない。
半自動ライフルにバンプストックを取り付けていれば、クルックス容疑者はトランプ氏周辺のステージ全体に銃弾を浴びせていたかもしれない。狙撃の技量は関係なかっただろう。病んでいる米国の政治が、一瞬にしてさらに病むことになっただろう。なぜこれほど多くの政治家や判事は、こうした殺害が続くことを望むのか。これこそが唯一、知りたい動機だ。
(フランシス・ウィルキンソン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Trump Shooter’s Motive Is Irrelevant: Francis Wilkinson(抜粋)
More stories like this are available on bloomberg.com
©2024 Bloomberg L.P.
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。