名目でも経済が成長すれば税収は伸びるものだ、と改めて思いました。2023年度の国の税収が72兆円と、想定より大きく上振れ、なんと4年連続で過去最高を更新したのです。
23年度税収は72兆円、2.4兆円上振れ
財務省が3日発表した2023年度の決算概要によると、昨年度(23年度)の税収は、72兆761億円で、22年度の税収より、9388億円も増えました。
補正予算段階で見込んだ税収より、2兆4651億円もの大幅な上振れで、まさに「嬉しい誤算」です。
税収は2年連続で70兆円を突破し、4年連続の過去最高更新です。
家計が、物価高で実質所得の減少に直面している苦しい状況とは裏腹に、国の財政には「インフレ課税」という神風が吹いているかのようです。
23年度の経済成長率は、実質では1.0%と、コロナ後の経済全面再開の割には低い数字でしたが、名目ではなんと5.0%もの「高成長」で、名目成長率に連動する税収への影響は大きかったと言えるでしょう。
円安による好業績で法人税が大幅増
税収の中で最も増加額が大きかったのは、法人税でした。
23年度の法人税は15兆8606億円と、前年度より9208億円も増えました。歴史的な円安で輸出企業の好業績が相次ぎ、その分、法人税が増えたのです。
最大の税目である消費税は23兆923億円と0.1%の増加でした。
堅調と言えなくもありませんが、物価高による消費の停滞が予想以上に足を引っ張った可能性もあります。
所得税は22兆530億円と、2.1%の減少でした。
それぞれの税収の増減には、テクニカルな面も含め、様々な要因があるのでしょうが、結果の数字から見れば、23年度の経済環境下で一番恩恵を受けたのは国(政府)で、次が大企業だったという姿が浮かび上がってきます。
目の前で起きている「インフレ課税」
インフレ時に一番得をするのは債務者、つまり借金をしている人だとよく言われます。
インフレによって、過去に借りた借金の返済負担が実質的に軽くなるからです。
日本最大の債務者は国(政府)なので、最大の受益者は、間違いなく国(政府)になります。
その一方、家計は、住宅ローンの返済が実質的に軽くなるといった恩恵がある世帯はあるものの、物価上昇に賃上げが追いつくまでの間は、実質所得が目減りしてしまいます。
これが「インフレ課税」です。要は、家計から政府部門への所得移転が起きているわけで、それこそが今、私たちの目の前で起きている現象だと言うことができるでしょう。
苦しい家計の消費減少は深刻
「インフレ課税」によって家計が圧迫され、消費マインドは大きく落ち込んでいます。
5日発表された家計調査によれば、5月の消費支出(2人以上世帯)は、実質で前年同月比1.8%もの減少になりました。
実は、消費支出は4月に公立高校の授業料値上げなどで0.5%増と、1年以上ぶりにプラスに転換したのですが、5月はその効果を打ち消すほどの支出減が相次ぎ、再びマイナスに転落しました。
4月にプラスだった「家具・家事用品」」や「被服・履物」がマイナスに転落、食料や旅行関係も大きなマイナスで、「全面節約」と言っていい、苦しい家計の姿が見えてきます。
賃上げの実現で収入が追いついてくれば、消費が拡大する「好循環」が実現すると期待する向きもありますが、その前に景気が腰折れてしまわないか心配です。
税収増というボーナスを何に使う?
こうした中で、上振れする税収という、いわばボーナスを何に使うのか。
財務省は借金返済を優先するという立場でしょう。
国債発行残高はすでにGDPの2倍に達しており、今後、起こり得る金利上昇や一層の円安リスクを考えれば、一刻も早く、そして少しでも、国債発行を減らすことこそがマクロ経済的には重要だという理屈です。
その一方で、賃金が物価に追いつかない中で、ガソリンや電気代などへの補助金や、減税などの家計支援策も重要です。
成長をけん引する新たな分野への支援策も必要でしょう。
ボーナスを何にどのくらい使うのか、文字通り、「ワイズ・スペンディング」(賢い支出)に向けた、知恵とオープンな議論が求められています。
最悪なのは、目先の税収増に安心し、何もしないことです。
すでに役割を終えたもの、無駄だと疑われているものをカットせず、漫然と放置、支出し続けることです。
政治のリーターシップが欠如している時は、往々にして、その可能性が高まります。
税収増というボーナスは、コストの増加に伴う歳出の増加や、金利上昇の伴う国債の利払い費増加という経路で、時間が経つにつれて、小さくなっていくでしょう。
ボーナスがある貴重な時間を無駄にしてはならないように思えます。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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