無線機専業メーカー「アイコム」は、今や売り上げ341億円(2023年3月期)のうち約7割が海外というグローバル企業だ。しかし、製造拠点は国内に限っていることについて中岡洋詞社長は「狙いのひとつに日本のモノづくりそのものを進化させることがある」と話す。かつて世界が注目した「日本のモノづくり」が陰りを見せる中で、いかにして輝きを増していこうと考えているのか。かつてアメリカ国防総省に初めて納入を成し遂げた「伝説の営業マン」中岡社長に日本のモノづくりの未来と今注目を集める賃上げ問題について聞いた。

海外赴任を目指して入社 しかし英語ができず会社に“居場所がなかった”

大学時代の中岡社長

―――長崎県の出身ですが、大阪に本社がある会社に就職しようと思われたのは?
 大学は九州だったんですけど、体育会の先輩がアイコムに勤めていたのと、大学の先生がアイコムと関係がありまして。決め手は「英語が苦手でも頑張ったら海外に行ける可能性がある会社だ」と言われたことですね。「行きます!」って即答してしまいました。当時は全く英語なんてできませんでしたが、海外で働けるチャンスがあるんだったらということで。

―――新入社員の頃の思い出は?
 やはり英語ができなかったのが一番ですかね。だから新入社員の頃は一生のうちで一番勉強したなと思いますね。私が入社した時は、英語が堪能な1つ上2つ上の先輩たちは海外出張にも行っていましたし。英語ができないと自分の居場所がないというか、自信もつきませんので…。そんな時に会社にテニス部を作る話が出て、私が学生時代にテニスをやっていたのを知っていた先輩から「お前がテニス部を作れ」と言われて、テニス部を作ったのが入社2年目か3年目だったと思います。

立ち上げたテニス部が地元大会で優勝

―――会社にテニス部を?
 テニス部を作っても実績がないと会社が部として認めてくれなくて、地元の小さな大会に何回か続けて出場して、準優勝、準優勝としたのですが、それではちょっと弱いと言われ続けて、3回目でようやく優勝することができたんです。それでテニス部をやっと会社が部として認めてくれまして。こういうことがあって、会社での居場所といいますか自分の存在価値といいますか、そういったものを見つけられたような気がしました。仕事に直接関連する話ではないのですけどね。

製品が世界中で大ヒット! 能登地震でも“必ずつながる無線機”が活躍

大ヒット商品「IC-2N」

―――無線機にもいろいろな種類がありますよね?
 海上用、陸上用、航空用といろんな種類がありますね。ヒット商品は、私が入社した1980年代に発売した「IC-2N」という無線機です。周波数を変える時は、当時、対応する周波数に応じた水晶振動子を全部載せて…ということでちょっと手間とスペースが必要だったんですけど、「IC-2N」はサムホイールというダイヤルで数字を合わせるだけで周波数を設定できる機構を搭載して大幅に小型化できたのです。当時としては非常に持ち運びの簡単な機械ということで、世界中でベストセラー、ロングセラーになりました。世界中で売れたので全社員で飛行機をチャーターしてハワイ旅行にいきました。

能登半島地震

―――今年の元日に起きた能登半島地震でも無線機を現地に届けたとか?
 無線機は携帯電話と違って中継局を介さず直接通話できるので、インフラにダメージがあるような大災害の時に役に立ちます。電話は非常に便利なツールですけども、やはり目的も使い方も違うので。一般的によく言われる無線機の強みは同報性と即時性で、インフラに頼らない点も大きいですね。また、非常時という点では、以前、消防士と話した時に、とにかく絶対につながる、火災現場で落としたりぶつけたりしても消火のための水に濡れても必ずつながる、信頼感がある無線機でないと困ると。そういう無線機を提供するのが我々の使命のひとつだと思っていますね。

―――時代とともに無線機に求められる機能に変化は?
 例えば、従来のトランシーバーの機能に加えてIP電話として使える製品を開発しました。IP電話で外線にかけることができますし、外からかかってきた電話を社内の内線に転送することもできます。病院であったりホテルであったりする所で「こういう使い方ができたら便利だな」っていうお話を聞いた上で、「では、当社は何ができるか?」と考えて答えを導き出すという感じですね。

創業以来『国内生産』にこだわる 「日本のモノづくりを進化させたい」

日本製にこだわる

―――創業以来、国内で製品を作ることにこだわっているとか?
 狙いのひとつに、日本のモノづくりそのものを進化させたいという思いがあります。さらには、海外に生産現場を置くと、設計部隊との時差が生じます。さらに言葉の壁っていうのももちろんありますし、加えて文化の壁っていうのもあると思うんです。というのは、「すぐにやってくれ」と言っても、その「すぐ」っていうのがどれぐらいの時間だとか、やはり環境や文化の違うところで育った人どうしでは受け止め方も違います。コミュニケーションの正確さやスピードの面では日本生産が圧倒的に有利だと思っています。

―――アイコムの強みは?
 元々、創業者がアマチュア無線から始めた会社なんですけども、そこで培った技術を海上用、陸上用、航空用…と展開しながら製品の幅を広げてきました。今、大きい会社の一部門としてではなく専業の無線のメーカーとしてやっている会社は非常に少なくて、世界で20社以下じゃないかと思います。なかでもこれだけ広い製品の幅を持っていて、全てひとつのブランドでカバーしているのは当社だけだと思います。

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