なんと愚かなことでしょうか。案の定、7月請求の電気代が大幅に値上がりすることが確定しました。この春の賃上げや、6月から実施される定額減税の効果の一部を帳消しにするものです。岸田政権のちぐはぐな対応が、せっかくの政策効果を台無しにしそうです。

再エネ賦課金ですでに電気代は値上がり

総務省が5月31日に発表した、東京都区部の5月の消費者物価指数(速報)は、生鮮食品を除いた総合指数で、前年同月比1.9%の上昇となりました。

伸び率は4月の1.6%から拡大しました。最大の要因は電気代です。

4月使用分=5月請求分から、再生エネルギー普及のための「賦課金』の引き上げによって、なんと13.1%も上昇したのです。

前月は、電気代はマイナス2.1%でしたので、物価上昇が拡大したほとんどすべてが電気代で説明できます。

7月請求分から電気代は過去最高レベルに

3月の本コラム「電気が次第補助打ち切り、もう物価高対策を緩めるのか」で指摘した通り、電気代は、再エネ賦課金の引き上げに加え、5月使用=6月請求分に政府の補助金が半減され、6月使用=7月請求分から政府の補助金がゼロになることで、3か月連続の値上げとなります。

その終着駅となる7月請求分の電気料金が30日、出揃いました。

東京電力の場合は標準世帯(260キロワット時使用)の場合、前月比で約5%増の8930円、原子力発電の比率が高い関西電力の場合は7664円となります。

前年同月比では東京電力の場合1544円の負担増、関西電力の場合2428円の負担増です。

2022年のウクライナ戦争開始後に記録した過去最高の水準は、東京電力が9126円、関西電力が7497円でしたので、大阪では過去最高値を上回ることになります。

それにもかかわらず、「東京ではまだ過去最高ではないから」などと、政府の危機感は薄いようです。

電気・ガス代が、実質所得プラスの足かせに

電気代の値上げは、家計を直撃します。月1500円の値上がり(東電)なら1年で1万8000円、月2500円(関電)なら年3万円です。

これに同じく補助金が全廃されるガス代の値上げも加わります。

政府は6月から1人あたり所得税3万円、住民税1万円、計4万円の定額減税を実施しますが、何のことはない、電気とガスの値上げで、減税分の相当な部分が帳消しになります。

また電気やガスを多く使用する中小企業にとっては、大きなコストアップになり、来年の賃上げどころではなくなるリスクもあるでしょう。

多くのエコノミストは、7月以降、電気・ガス代の値上げで、消費者物価指数は1ポイント以上引き上げられると見ています。実はこの1ポイントが大きいのです。

ざっくり言って春闘でのベースアップ部分は連合集計で3%台です。

一方で日銀が目標とする物価上昇勝率は2%ですから、ベアが3%あって、初めて実質賃金が1%のプラスになるわけです。

これに電気代の値上げの1%が乗っかれば、ベアが3%問恵まれた人でも実質賃金はプラスになりません。ベアが3%に満たない人の実質賃金は言うに及びません。

岸田総理の最側近も電気・ガス代の補助再開を示唆

コトの重大さを認識したのか、岸田総理大臣の数少ない政策ブレーンで最側近とされる自民党の木原誠二幹事長代理は、26日にフジテレビに出演した際に、電気ガスの補助金について、「いったんやめると決めたが、政府は、状況が変われば臨機応変にと言っており、しっかり見て対応を考えたい」と述べました。

夏以降に物価対策として電気代ガス代への対策を改めて打ち出したいように見えます。

だったら、この一番大事な時期に、なんでやらないんだよ、と突っ込みたくなります。

「2024年中に物価高を上回る所得を実現する」というのは、岸田総理の公約です。

そのために手間のかかる定額減税まで実施します。そして、減税による消費を促そうと、給与明細に減税額を明記することまで、企業に義務づけたのです。なんというちぐはぐな対応でしょう。

そう言えば、電気代の請求書にも政府による補助額を明記させていました。7月の電気代請求書には、果たして、補助打ち切りでいくら上がったのか、明記されるでしょうか。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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