路面電車(トラム)が世界的に注目されています。以前は「チンチン電車は渋滞の元だ!」と続々廃止になったものですが、今はいわば「エコの旗手」。昨年開業した宇都宮のライトラインも注目を集めています。(アーカイブマネジメント部 疋田 智)

チンチン電車はモータリゼーションの邪魔(でした)

路面電車は1895(明治28)年に京都で開業したのを皮切りに、東京、大阪、名古屋などの大都市に急速に広がっていきました。やがて路面電車網は全国の都市に広がり、戦前戦後のかなり長い時期、路面電車は「チンチン電車」の名前で親しまれました。「チンチン」とはクラクションがわりのベルの音です。漱石の「坊ちゃん」が乗っていたのも路面電車の一種(当時はSLの軽便鉄道)でした。

全国あらゆる都市に路面電車網は敷かれました。

ところが、戦後の高度成長期になると事情が変わります。
急速にモータリゼーションが進展し、日本人は我先にとクルマに乗るようになりました。
いつしか、路面電車は「邪魔だ」とされるようになったのです。車道上に線路を敷くため、路面電車の動線はどうしたってクルマの動線と重なっていたからです。
多くの都市で路面電車は廃止の憂き目に遭いました。特に地下鉄敷設の財力がある大都市において、路面電車はその役目を地下鉄に譲っていったのです。

全国各地(特に大都市)で、路面電車は続々廃止されていきました。

エコの旗手に

ところが昨今、その利便性や、環境負荷の低さが再評価され、再整備や新規導入が進んでいます。
路面電車は、案外全国各地に残っており、広島市や長崎市などでは日常の交通手段として広く利用されています。広島市の広島電鉄は日本最大規模の路面電車網を誇り、市民生活に欠かせない存在ですし、長崎市の長崎電気軌道も観光と実用を兼ねた重要な交通機関です。

全国に路面電車は案外残っていました。それが今復活しようとしているのです。

路面電車(トラム)は、バスと較べて定時性が高く、大量輸送が可能です。
電気を動力源とするため、排出ガスがなく環境に優しい点も大きな特徴です。また、都市の景観に溶け込みやすく、観光資源としての価値も高いといえます。ここに最初に注目したのがヨーロッパ諸国でした。

ストラスブール(仏)のトラム利活用は「コンパクトシティ」のお手本となりました。

これらの欧州諸国では多くの路線でICカードが導入されており、利便性が向上しています。
一方、オーストラリアのシドニー市ではすでに地下鉄網があるにもかかわらず、大規模なトラムの導入をすすめ、よりきめ細やかな輸送網が構築されました。これは「中心街からクルマをなくそう」という試みでもあるそうです。

シドニー(豪)の大規模トラム、長い長い(Photo:HIKITA/Satoshi)

「路面電車サミット」の後に(富山市と宇都宮市)

じつは日本とて指をくわえて見ていたわけではありません。97年には「路面電車サミット」が開かれ、路面電車のメリットの活かし方や、デメリットの解消などについて話し合われました。特にクルマとの共存には懸念点も多く、「クルマ社会」の地方都市では歓迎されない部分もないとはいえませんでした。

路面電車サミット97は岡山市で開かれました。

そこに吹いたのが世界的な「エコの風」だったのです。
まず富山市は2006年に新たに開業した路面電車「セントラム」を環状トラムとしました。
その後、海に向かう「ポートラム」を開業したのです。いずれもヨーロッパ型の低床式トラムでした。なかなかオシャレです。

じつは富山市の「コンパクトシティ戦略」の一環だそうです(Photo:HIKITA/Satoshi)

そして昨年スタートした宇都宮の「ライトライン」。これまたヨーロッパ型のオシャレな車体です。「チンチン電車」ではなく「LRT(ライトレールトランジット)」を標榜しています。

ちなみに運営会社の「宇都宮ライトレール株式会社」は2015年に設立されています。

「真のエコ交通」にするために

いまも地方都市を中心に、新たな路線の開業や既存路線の改良が考えられています。エコという目的のみならず地域経済の活性化や観光振興にも貢献すると考えられているからです。
総じて、日本の路面電車は、歴史的な背景と市民の支持を得ています。これらをうまくいかし、現代的な利便性と味付けを施し、今後も都市交通において重要な役割を果たすことが、いま期待されているのです。

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