半導体大手のエヌビディアの好決算で、株価の底上げに期待が高まった株式市場。ところが物価高への懸念が再燃し、NYダウ平均株価は600ドル以上値下がりしました。

半導体エヌビディア好決算 市場予想上回る

注目の決算は、22日のニューヨーク市場の取引終了後に発表されました。
東京・銀座の投資家バーでは…

投資家バーの常連客
「一生一緒にエヌビディア~!かんぱ~い!!」
「寝れなかったというか気になるじゃないですか」
「これ外すと結構影響が出るから」

投資歴22年(男性)
「ITバブルの再来がまた来るんじゃないか。乗ったほうがいい」

エヌビディアの今年2月から4月期の売上高は日本円で4兆690億円で、1年前の3.6倍。純利益は2兆3250億円で7.3倍。ともに過去最高で、市場予想を上回りました。

主力のデータセンター向け半導体の売上高が1年前の5.3倍に急拡大しているほか、年後半に投入が予定される、次世代半導体「ブラックウェル」についても「需要が供給を上回る状況が来年も続く」ことが明らかになりました。

同時に1株を10株にする株式分割も、株価を押し上げる要因に…
株価は時間外で一時7%ほど上昇しました。

決算発表の声明文で、ジェンスン・フアンCEOは成長の持続に自信を示しました。

「次の産業革命が始まった」
「企業と国は我々と提携して、従来のデータセンターを高速化した1兆ドル規模の“AI工場”で、『人工知能』という新製品を生み出している」
「我々は次の成長の波への体制は整った」

半導体産業の分析が専門の南川明さんは、エヌビディアの強さについて…

Q:「1強」の時代 いつまで?

オムディア シニアディレクター 南川明 氏
「2年ぐらいは少なくとも寡占独占が続くのではないか。(GPUの)奪い合いみたいになっているのでどんどん価格が吊り上がっている。AMDだとかIntelのプロセッサーって、高いものでも数万円とか10万円ぐらいが天井なのだが、エヌビディアの今の「H100」は300万円とか400万円とちょっと今までの半導体の常識では考えられなかったような値段がついている」

Q:強さで注目すべきは…

「システムを作るときの開発ツール、ソフトウェア、これが揃っている。非常に豊富に揃っている。(生成AIを)作るためには非常にコストと手間がかかってしまう。開発ツールがあることによってかなり手助けしてくれるので開発しやすい」

今年3月、半導体関連銘柄の急騰で、日経平均株価が史上初めて4万円台に乗せたきっかけは、エヌビディアの好決算でした。

今回も投資家の多くは、エヌビディア株の急進が相場全体の押し上げに繋がるシナリオを描いていました。

半導体エヌビディア好決算も…NY株は今年最大の下げ幅に

ところが、決算発表から明けた23日のNY市場では、エヌビディアの業績拡大への期待から、前日終値から一時12%上昇し、終値でも初めて1000ドルを超えました。

エヌビディアの独歩高の一方で、ダウ平均は大幅続落し、前日より605ドル安い3万9065ドルで取引を終えました。今年最大の下げ幅です。

景気の先行きを示す5月の購買担当者景気指数=PMIが2年ぶりの高い水準を示したことから、FRBが早期の利下げに慎重になるとの見方が広がり、全面安の展開となりました。

昨日の東京市場は、幅広い銘柄に売り注文が膨らみ、一時700円以上下落。終値は、前日より457円安い3万8646円で取引を終えました。

NY市場参加者に聞く 全面安の背景と見通し

アメリカ市場の受け止めについて、ニューヨークに拠点を置くヘッジファンド、ホリコ・キャピタル・マネジメントの堀古英司さんに話を伺った。

ーーエヌビディアの決算はケチのつけようがないぐらい良い決算だったが、ダウ平均は605ドル安と1年3か月ぶりの安値、下げ幅を記録した。これはなぜ?

ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
今週は二極化が顕著な1週間だった。
すなわち、これまで比較的エヌビディアのような半導体の株と、不動産とか住宅の株が連動していたが、ここにきて、エヌビディアのようなAI関連は比較的中長期的にいってもまだまだ有望だということが確認された。

一方で、住宅とか不動産などは、高金利が長期化している。この二極化が顕著に現れた1週間だった。

ーーそういう景気敏感株が中心のダウ平均の方は、やはり大きく下げてしまったという一方、ハイテク株中心のナスダック市場は、昨夜のニューヨーク市場で史上最高値更新となっている。これはやはり、AI、半導体への期待感が強いということなのか。

ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
そうですね。AIという技術は、かなりの初期の段階だと思っている。

巨大な設備投資が必要な分野なので、そうなるとやはりAIを引っ張る大手がどんどん勝っていくという特徴があるので、ナスダックの中でも比較的ウェイトの大きい上位のハイテク銘柄がこれからも引っ張っていく展開が続く可能性が高い。

ーーAIや半導体などが経済成長に及ぼす影響が飛躍的であるという見方が、株式市場の一部には強いということなんですか。

ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
AIという技術は、生産性を上げる、すなわち、インフレが比較的抑制された中で経済の成長が見込めるという過去、産業革命やインターネットの導入時にあったような、画期的な技術だと思うので、中長期的に見て、今、金利が高止まりしているがインフレ率は落ち着いていく。にも関わらず、経済の成長が比較的高いことが見込まれるという、非常に経済全体にとって良い影響がもたらされる技術だと思う。

ーーそういう期待感がある一方で、アメリカの株式市場では依然としてFRBが金利を上げるか下げるかに常に敏感になっているという状況が続いている。この神経質さが出ているのはなぜか。

ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
やはり2022年、インフレ率が上がって金利が上がったが、金利が上がると債券が売られて株も売られたという2年前のトラウマがある。

このように金利が上がると株が下がるというのは、過去の歴史を見るとイコールじゃない。
金利が上がる時は大体景気がいいので株にはプラスのはずだが、今のマーケットは2年前のトラウマに囚われて、金利が上がると株が上がらなくなると下がるかもしれないという恐怖感が、まだまだ市場に支配的だということ。

ーーそうすると、今年の秋にFRBが利下げをするかどうかというのが焦点になってくるが、その時期まではこういう雰囲気が続くというふうに見ていいのか?

ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
今ちょうど、2年前にインフレ率がピークを打ってから下がってきた。3%前半から2%になるまで相当時間がかかるフェーズになっている。
ここで足踏みするのは仕方がないが、市場が前のめりになって利下げを要求しても、なかなかそんなに簡単にいかない状況が数か月続くという見込み。

ただ、インフレはまたいずれ低下を始めると思うので、秋口や大統領選挙の後のタイミングとも相まって、また株価に良い影響を与えていくんじゃないかと考えている。

しばらくは銘柄をしっかり見極めることが大事という局面かもしれない。

半導体エヌビディア好決算「次の産業革命始まった」

ーー株式市場は依然として神経質な展開のようだが、アメリカのマクロ経済の状況について。
5%を超える政策金利にも関わらず、依然としてとにかく景気が強いと思う。また、物価も強い。これはどういうことなのか

伊藤 元重氏:
よくわからないが、金利を今の状態で置いといても景気が失速しない、という安心感がある。
一つはやっぱりコロナの反動が大きく、皆が想定した以上であったということと、もう一つはアメリカの財政の影響が大きいと思っている。
インフレ抑制法案などで、いろんなところに民間の投資が回るように相当激しい財政資金追加が出て、これが景気をかなり後押ししてるんじゃないかなと。

ーー半導体工場への投資とかEV工場への投資とか、そういうものが景気刺激で?

伊藤 元重氏:
政策的に言うと、金融の引き締めをしてきているわけで、当然ポリシーミックスでその反対側で財政を出していくというのはどこの国もやっているが、それがアメリカでも非常に顕著に出ているということだと思う。

こうした中、FRBパウエル議長は慎重な姿勢だ。
「1-3月のインフレ指標上振れで物価目標2%に自信を持てない」「我々は忍耐強く、引き締め的な政策が役割を果たすのを待つ必要があると」と発言した。

ーー今後のアメリカ経済のポイントというのは、どこにあると見ているか。

伊藤 元重氏:
一番ベストなシナリオは、少しずつインフレ率が下がってきてそれに応じて金利も下げて、安定的にソフトランディングすること。
心配なのはインフレ抑制のために金利を高いままにしておいて、どこかで景気が大きく落ちて、いわゆるハードランディングになるということ。

今の段階で見ると、多分ソフトランディングのシナリオの方が高いんじゃないかなと。秋あるいは年末ぐらいにかけ、インフレが少しずつ減ってきて、金利を下げていくということになるんじゃないかと期待している。

ーーただ金利がこれだけ高いと、住宅ローン、クレジットカードなどの借入金利も上がっている。どこかに我々が見えない大きな落とし穴がないかというのが心配。

伊藤 元重氏:
中央銀行もそれは当然見ていて、単にいろんな重要な指標だけじゃなく、全体的に高金利が持っているマイナス効果で見てると思う。
マイナスの部分もあるが、全体的には今すぐに金利を下げる状態ではないというふうに判断しているのだと思う。

エヌビディアの決算に関して、今月エヌビディアの日本代表の大崎さんのお話を伺ったが、今回もすごい決算だった。
エヌビディアが22日に発表した2-4月期の決算は、売上高が前年同期比で3.6倍となる260億4400万ドル。純利益が7.3倍となる148億8100万ドルで、いずれも市場予想を上回り過去最高となった。

利益が1年で7.3倍。260億の売り上げで148億の利益ということは、半分以上。こんな商売が認められていいんだろうかと言いたくなるような決算。
またこれを受けて株価が急騰。23日は9.32%高の1037ドルで取引を終え、24日も続伸し、1064ドルとなり、わずか1年5か月の間で株価は7倍以上値上がりしている。

ーー先ほど堀古さんも言ってましたように、AIが引っ張っていく新しい経済への期待感というのは非常に強いとのことだが、これは本当か

伊藤 元重氏:
こういう話をこの20年30年ずっと聞かされてきて、一方でイノベーションが経済成長を引っ張るんだといういう、イノベーション信奉派というのは結構強い。
他方でイノベーションはあるが、それは簡易型でやっているので。

ーー経済学の世界でもなかなか見方が分かれるのではないか。

伊藤 元重氏:
今回AIという一歩進んだ技術が出てきて、少し考え方ががかわったもしれないが、本当にAIが経済成長させるのであれば、エヌビディア以外の普通の企業の株価も上がってもいいはず。
そうなってないということは、まだみんな様子見だということだろう。

エヌビディアのCEOはこういうメッセージを残している。

「次の産業革命が始まった」「企業と国は我々と連携提携して、従来のデータセンターを高速化した1兆ドル規模のAI工場で人工知能という新製品を生み出している」

ーー次の産業革命が始まった。だから単なるイノベーションではない、革命なんだと言っている。

伊藤 元重氏:
20世紀の後半のITバブルのときもそういうこと言っていた。今回もかなり多くの人が期待してるということが株価に現れていてると思う。

ーーそこが生産性向上に本当に繋がるかどうかの見極めは、これから先ということ?

伊藤 元重氏:
産業革命と違うのは、AIの場合には、いろんな産業に繋がっていくスピードが多分早いだろうと思う。だからそこを期待したいところ。

ーー実装化されていくプロセスが蒸気期間の普及なんかにはもっと短い時間に起こってくる。そのときに乗り遅れないようにするってことが大事ですよね。

(BS-TBS『Bizスクエア』 5月25日放送より)

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<プロフィール>
堀古英司氏
NYの投資顧問会社の最高運用責任者
ヘッジファンドの運用に携わる
著書に「リスクを取らないリスク」

伊藤 元重氏
東京大学名誉教授 専門は国際経済学
経済財政諮問会議民間議員など歴任
近著「世界インフレと日本経済の未来」

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