飛書は先進的な機能や使い勝手を売り物にするが、企業への普及に苦戦している(写真は飛書科技のウェブサイトより)

企業向け業務効率化ツール「飛書(フェイシュー)」の開発を手がける中国の飛書科技が、初の人員カットに踏み切ることがわかった。財新記者が入手した3月26日付の社内メールの内容について、同社の広報担当者が事実を認めた。

飛書科技はショート動画アプリTikTok(ティックトック)の運営会社として知られるソフトウェア開発大手、字節跳動(バイトダンス)の傘下企業だ。その出自は、バイトダンスがもともと社内用に開発したコミュニケーションツールにある。

バイトダンスは、かつては社内業務で「企業微信(企業版ウィーチャット)」「Slack(スラック)」「釘釘(ディンディン)」などの他社製のコミュニケーションツールを使用していた。しかし2016年末にアプリの自社開発を決断。チャット機能だけでなく、スケジュール共有、ビデオ会議、クラウド・ストレージなどさまざまな機能を統合した業務効率化ツールとして製品化を進めた。

社内ツールをもとに製品化

飛書は2017年末からバイトダンスの社内業務に全面採用され、2018年には中国国内で社外の企業顧客向けのテスト運用を開始、2019年に正式リリースにこぎつけた。

だが、その後の企業への普及は思うように進んでいないのが実態だ。飛書科技のCEO(最高経営責任者)を務める謝欣氏は人員カットの理由について、前出の社内メールの中で次のように述べた。

「飛書のビジネスは一定の成果を収めたものの、わが社の組織が抱える問題点も見えてきた。チームの規模は大きくなったが、十分に有能とは言えず、業務効率が低下している。このままでは、ビジネスの長期的発展は望めない」

同社は組織の一定程度のスリム化を通じて、業務効率の改善を図る。解雇する従業員に対しては、金銭的な補償または(グループ内の)他部門に転籍する機会を提供するとしている。なお飛書科技は、人員カットの具体的な規模については明らかにしていない。

バイトダンスは2021年11月にグループの組織再編を実施した際、飛書を6大事業ユニットの1つとして位置づけ、TikTokなどと並ぶビジネスに育てる方針を示した。

大手ネット企業が不採算事業の見直しを進める中、飛書は岐路に立っている。写真は2023年3月のイベントでプレゼンテーションする飛書科技の謝欣CEO(同社ウェブサイトより)

だが、飛書の市場シェアは競合する釘釘や企業微信に大きく見劣りする。市場調査会社の2022年11月時点のデータによれば、釘釘の月間アクティブユーザー数(MAU)が2億5300万人、企業微信が同1億1000万人だったのに対し、飛書は同930万人にとどまっていた。

バイトダンスの立場で見れば、飛書に多大なリソースを投入し、組織規模も大きくなった割に、明確なリターンが得られていない状態と言える。

親会社の「輸血」頼みは限界

飛書のような企業向けSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)の業界は、中国では2023年から低迷期に入っている。同年のSaaS関連の資金調達件数と調達総額は、2014年以降の最低水準に落ち込んだ。

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ネット業界の巨大企業は(バイトダンスを含めて)手を広げすぎた事業の見直しを進めており、飛書はこれ以上、親会社からの(追加投資などの)「輸血」に頼れなくなっている。謝CEOは、社内メールの中で次のように強調した。

「今回の(人員カット実施という)調整の目的は、組織のダウンサイジングだけではない。重要なのはスタートアップ企業としての初心に立ち戻り、会社の方向性を明確にすることだ。プロダクトの競争力、とりわけAI(人工知能)関連の能力を磨き、より多くの顧客によりよいサービスを提供しなければならない」

(財新記者:包雲紅)
※原文の配信は3月26日

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