【スタートアップ(新興企業)】山海の幸などの返礼品で全国的に人気を集める道内各地のふるさと納税。道内の10自治体から、ふるさと納税の業務全般を受託する「スプレス」(札幌)の加納綾代表取締役に地域を応援する仕事の魅力を聞きました。
専業主婦の後、小さな仕事で見つけた商機
――どちらの出身ですか? どんな子ども時代を過ごされましたか?
黒松内町(後志管内)です。父が教員で転勤が多くて、活発でしたが、周囲の様子を見ながら、バランスをとる子どもでした。私も教師になりたいと思い、高校は進学校に行ったのに勉強はあまりしなくなりました。
――学校を出られた後は?
室蘭信用金庫に勤めました。就職したのはいいのですが、性格に合わず、結婚退職に逃げました。
――そこから、ふるさと納税の仕事にどうつながるのですか?
専業主婦をしており、夫の転勤で北広島市に引っ越しました。子どもの学費が大変かかり、新千歳空港のお土産屋さんで働きました。取引先の大手の会社がふるさと納税の事業を始め、一緒に営業に行くうちに私にもできることがあると思い、社内で新規事業としてふるさと納税の業務を立ち上げました。大手の下請けで農家さんを回る小さなつなぎの仕事でしたが、意外とニーズがあり、事業として成り立つようになりました。
足を運び、顔を合わせ、縮んだ距離感が事業の原点
――どういったきっかけで独立されましたか?
会社の経営者が変わり、ふるさと納税の事業は撤退することになりました。せっかく取引先との関係を築き、信頼されるようになったのに、「会社の都合で終わりです」というのは無責任だと思い、(ふるさと納税の事業譲渡を受ける許可を得て)独立を決意しました。それから(2016年10月の)起業までわずか1カ月でした。
――どんな仕事が思い出深いですか?
利尻富士町(宗谷管内)の仕事で返礼品のアイテムを増やすため、利尻島に通っていたとき、安心させようと言われた「そんなに島に何度も来なくても大丈夫だよ」という言葉がいつのころからか、「次はいつ来るの?」に変わりました。こうして顔を合わせ、会話を重ねる関係性が大切だと感じました。すごく温かく迎えてくれ、今後はずっとこういう仕事(の仕方)をしていこうと、決めました。いろいろな地元の事情、歴史があり、通い続けて一緒にお酒を飲み、お話をする中で分かることがたくさんあります。すごく重要なポイントだと思います。
ふるさと納税は足がかり 信頼を得て広がる仕事
――今、力を入れている取り組みは?
ふるさと納税の仕事を引き受けた全自治体が毎年、前年の寄付額を超える―。その目標を大切にしており、(達成に向け)、毎日、一つ一つの課題に向き合い、クリアして365日を過ごしています。ふるさと納税の事務的な仕事を引き受けるだけでなく、その自治体の全体的な課題もお聞きすることも多くあります。利尻富士町では50年前まであった日本酒の酒蔵が地元でも忘れられつつあるときに、町長から(当時、その酒蔵が造っていた人気銘柄を復活させたいと)相談を受けました。自治体がやるとなると、予算を取って、(酒造メーカーに)委託して、時間がかかりますよね。その話を聞き、「私達がやります」と言って、お酒を本当に作りました。ふるさと納税の返礼品と島限定で提供しています。自治体が取り組みにくい課題に対しては、ふるさと納税という足がかりで入り、(民間のメリットを生かして)やっていく感じです。まちに入り込み、(信頼されて)仕事が広がっていきましたね
女性を積極的に受け入れ、働きやすい職場に
――従業員は何人いますか。どんな経営を心掛けていますか?
従業員は30人です。女性がとても多い会社です。自分が子育てを経験したこともあり、子育てや専業主婦はキャリアだと考えており、結婚して仕事を辞めて(一般的な意味でキャリアが中断しても)、ちゃんと受け入れ、働けるようにしたいです。
――会社には娘さんもいらっしゃいますね。
東京の大学に進学しましたが、この春、退学して取締役として働いています。家に帰って「今日のあれはそうじゃないと思う」と、社員が言えないことを、娘が冷静に端的に言ってくれるのは、とてもありがたく思っています。
札幌から、道内地域の振興に貢献できる会社に
――会社の事業とご自身の未来の話をうかがわせてください。
地方の子どもは札幌や東京に行きたくて就職や進学を選ぶ(傾向にある)と思います。札幌に出て、地元の仕事をしてほしい。生まれ育った地域の良さにあらためて気づき、札幌にいながら地元への貢献ができるのです。その仕事がうちならできます。(地方の子どもが)地元で働く雇用ではなく、別の形で働く事業を実現させるのが今の夢ですね。
――そこまで考えられるはローカルにどっぷり浸かっているからですね。
現場に行って、自治体の方、事業者の方、生産者の方と会って話をするのはすごく楽しいです。その空気感を感じながら、その土地の人間として仕事をしている、仕事をしていかなければいけないという感覚で取り組んでいます。
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