日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収手続きが、USスチールの臨時株主総会の承認を得て一歩前進した。ただ、11月に大統領選を控えた米国では、外資による米名門企業の買収が政治問題化している。当初、両社が目指していた9月末の買収手続き完了が後ずれする可能性も出ている。
「この取引は、USスチールのすべての利害関係者にとって真に最善の道だ。世界最高の鉄鋼メーカーを作ることで、私たちは従業員の雇用を維持し全ての約束を果たす」。USスチールは12日、オンラインで開いた臨時株主総会後に発表した声明で、買収のメリットを強調した。
投票総数の98%以上が買収案に賛成だった。日本製鉄が市場価格を大幅に上回る買い取り額を示していることもあり、株主の圧倒的多数が買収を支持していることが確認された。
ただ、買収手続き完了に向けたハードルは高い。バイデン大統領の支持基盤でもある全米鉄鋼労組(USW)が買収反対の立場を崩していないためだ。
米当局への対応も必要となる。安全保障上の観点から対米外国投資委員会(CFIUS)が審査するほか、市場が独占されないかどうか米司法省も審査を始めるとみられている。
ある交渉関係者は「米国と同盟を結ぶ日本企業に安全保障上の問題があるとは思えない」とみる。経営不振にあえぎ、粗鋼生産量で世界27位に低迷するUSスチールとの合併に競争上の問題が生じる可能性は低いとの指摘もある。
だが、大統領選でライバルとなるトランプ前大統領に対し苦戦が伝えられるバイデン氏にとって、USWの支持は必要不可欠だ。トランプ氏が買収に反対姿勢を示していることもあり、バイデン氏も慎重姿勢を取らざるを得ない状況だ。こうした内政事情も手伝い、当局の審査が長期化する可能性もある。
日本製鉄は当初計画通り9月末までの買収を目指しているが、米ブルームバーグ通信は12日、日本製鉄とUSスチールが買収完了時期を24年後半に延期する発表を予定していると報じた。先行きには暗雲がたれ込めている。【ワシントン大久保渉】
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