パリで6日に行われた中国と仏、欧州連合(EU)の首脳会談では、米中対立を念頭に欧州を取り込みたい中国側と、具体的な経済問題で要求を突き付けるEU側の思惑がすれ違った。
「世界を支える二つの重要な力として、中欧は戦略的協力を発展させるべきだ」。中国の習近平国家主席は6日にパリで開かれたマクロン仏大統領と欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長との3者会談で欧州重視の姿勢を重ねて強調した。
習氏にとって2024年初めての外遊であり、欧州歴訪は19年以来、5年ぶり。11月の米大統領選や国内経済の停滞など不確定要素に直面する中、習指導部は欧州との関係立て直しを優先課題と位置づけている。
訪問先はフランス、セルビア、ハンガリー。その「点と線」を結ぶと、中国が欧州と米国、さらには欧州内の対中政策の温度差を突き、米主導の対中包囲網を切り崩そうとする狙いが浮かび上がる。
中仏関係について、習氏はフランス到着時に発表した談話で「異なる社会制度を持つ国家間の平和共存の模範」と表現した。フランスは外交や安全保障で米国と一線を画してきた伝統を有す。米国に追従しないよう他国に働きかける中国には、格好の連携相手といえる。
マクロン氏も欧州が米国依存から脱却すべきだとする「戦略的自律」が持論だ。23年4月に訪中した際には、台湾問題について「欧州は米中のいずれにも追随すべきでない」と述べ、欧米の足並みの乱れを露呈させたことがある。
習氏は今回、中仏の友好ムードの演出に腐心し、6日のマクロン氏との共同記者会見では今夏のパリ・オリンピック期間中の休戦呼びかけで合意したことを明かし、マクロン氏の顔を立てた。フランスが求める農産物などの輸入拡大にも応じ、巨大市場がもたらす利益をアピールした。
一方、セルビアとハンガリーは共に、対中警戒心が高まる欧州にあって「親中」を維持している国だ。ロシアのウクライナ侵攻後、欧州とロシアの間で微妙なバランスを取る両国の立ち位置も中国と重なる部分がある。
両国は習氏肝煎りの巨大経済圏構想「一帯一路」を歓迎している。セルビアの首都ベオグラードとハンガリーの首都ブダペストを結ぶ鉄道計画は、中国の高速鉄道を欧州に輸出する初のケースとされ、中国側は「一帯一路の画期的プロジェクト」と自賛する。治安維持面の連携も深めており、中国はセルビアに警察隊を派遣して合同パトロールを実施。ハンガリーとも同様の協力関係で合意している。
ハンガリーでは中国の電気自動車(EV)大手などの工場建設が相次いでおり、北京の外交筋は「ハンガリーが中国の欧州市場での橋頭堡(きょうとうほ)になる可能性がある」と分析した。ハンガリーは24年下半期のEU議長国であり、中国が欧州への働きかけを強める好機と見ている可能性がある。
中国の外交戦略は常に最大のライバル、米国が念頭にある。それを象徴するのは、米国との因縁が深い7日に、セルビア訪問の日程を合わせたことだ。1999年のこの日、当時のユーゴスラビアに対する北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆により、ベオグラードの中国大使館が米軍ミサイルの「誤爆」を受け、中国人記者3人が死亡した。
この事件から25年の節目に、習氏は現地で追悼式典に出席するとみられる。悲劇の記憶を呼び覚まし、国際社会に向けて米国が掲げる「正義」に疑義を投げかける場となりそうだ。【北京・河津啓介】
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