米シンクタンク「スティムソン・センター」は12日、米国と中国が軍事衝突し、在日米軍基地の滑走路が中国のミサイルで集中的に狙われた場合、12日間近く戦闘機の運用ができなくなるとのシミュレーション結果をまとめた報告書を公表した。台湾有事などを想定した場合、紛争初期に滑走路が機能不全になるのは大きな痛手となる。報告書は滑走路への攻撃を防ぎきるのは困難だとして、滑走路が不要で機動的に運用できる無人航空機(ドローン)の活用に重点を切り替えるよう促している。
航空機や人員が無事でも「無力」に
報告書は軍事専門家や米空軍出身の客員研究員らがまとめた。中国国防大学の教本などを根拠に、人民解放軍が戦時に敵の航空基地や滑走路を優先的に攻撃する意図があると分析。滑走路を破壊すれば、航空機や人員が無事でも航空戦力を使えなくなることが背景にある。
復旧に少なくとも11日半
シミュレーションでは、人民解放軍が弾道ミサイルや長射程の巡航ミサイルを使って、日本、米領グアム、北マリアナ連邦などの米軍拠点の滑走路を一斉に攻撃すると想定。敵ミサイルや迎撃ミサイルの精度、断続的な攻撃のシナリオも考慮して、滑走路が被害を受けてから復旧までの時間を推計した。
在日米軍基地で戦闘機の運用を再開するまでには少なくとも11日半かかった。さらに戦闘機より長い滑走路が必要な爆撃機や空中給油機の運用再開には1カ月以上かかった。F35やF22、F15などの戦闘機は航続距離が限られ、空中給油機の支援がなければ、戦域にとどまって複数回攻撃したり、遠方に派遣したりするのは難しくなる。爆撃機に比べて搭載できるミサイル数が少ないため、戦闘機だけでは攻撃の効率も落ちる。
また、中国の一部のミサイルしか届かない米領グアムなどの滑走路は2日以内に復旧できるとの結果で、日本の方が対応が難しいことも浮き彫りになった。
一方、日本が自衛隊基地の使用を許可した場合、戦闘機の運用再開までは3日半以上、空中給油機などは9日半以上かかった。民間空港を使用した場合でも、戦闘機で3日間、給油機で9日間は日本からの運用はできないという結果だった。
米空軍は中国との戦闘を見据えて、航空機を分散配備した上で頻繁に移動し、敵に標的を絞りにくくさせる「ACE(エース=機敏な戦力展開)」という戦術の浸透を図っている。米軍や自衛隊は、航空機の格納庫の強じん化、滑走路復旧の迅速化といった取り組みも進めている。
しかし、敵の対空攻撃能力が限られた対テロ戦争と異なり、高性能な対空ミサイルを持つ中国を相手に想定した場合、既存の戦闘機や爆撃機を敵の脅威圏内で運用するのは難しいとの指摘が以前からあった。
ドローン重点に切り替え促す
そうした運用上の制限に加えて、今回の報告書は航空機運用の大前提となる滑走路の脆弱(ぜいじゃく)性を指摘した。米軍には無人機を中心とした運用に重点を切り替え、敵の脅威圏内で持続的に活動するために必要な武器や燃料、機材を太平洋の島しょ部に事前に配備しておくよう提言。さらに中国の脅威を受ける日本やフィリピン、台湾など米国の同盟・連携相手には、無人機や防空ミサイルの態勢を優先的に強化するよう提案した。【ワシントン秋山信一】
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