尹錫悦大統領の弾劾訴追案の廃案から一夜、非常戒厳を進言したとされる前国防相が、8日、身柄を拘束されました。

■採決前に大量の“メッセージ爆弾”も
(李志善記者)「弾劾の不成立から一夜明けた国会前です。尹大統領の逮捕と弾劾を求めて声を上げています。きょうは若い人たちの姿が目立ちます」
8日になっても、尹錫悦大統領の弾劾を求める声が止むことはありません。
(集会の参加者)「国をまともに運営できず、政治理念も持たない人が大統領ではいけないと思ったので来ました」
「当然、弾劾されるべきだと思います。私たちは諦めない。(弾劾が)行われるまで諦めないことを見せたいです」
尹大統領の弾劾訴追案を可決するには国会議員300人のうち、3分の2の賛成が必要で、与党「国民の力」から8人の造反が出るかどうかが焦点でした。
7日、国会前には16万人が集まり、弾劾訴追案の可決を求めて声を上げー。さらに現地メディアが“メッセージ爆弾”と呼ぶ、与党議員に対する働きかけも―。
(河村聡記者)「サイトに接続してみますと、こうして議員の名前がズラリと並んでいます。1人クリックしてみると、メッセージの画面に切り替わりまして、メッセージも入力済みですね。弾劾案を可決させてくださいと書かれています」
ある与党議員の携帯電話には「弾劾に賛成せよ」とのショートメッセージが、4000件以上殺到したと言います。

そんな中、国会内では採決直前になって動きが―。
「退場するのか!卑怯だ!」
与党議員が次々と本会議場から出ていったのです。現地メディアによると残ったのは1人だけ。投票ボイコットに、野党議員は―。
(野党議員)「カン・ミングク議員!カン・ソンヨン議員!早くお戻りください」
与党議員一人一人に、投票に戻るよう呼びかけます。議場のすぐ外も混乱した状態に―。
「違憲政党!解散しろ!」
野党側が採決を引き延ばす中、再び議場に戻ってきた与党議員も―。コップの水を飲み干し、意を決したように、歩を進めます。拍手が起きる中、投票。野党議員らが集まり、握手を求めました。ただこの与党議員、賛成票を投じたと思いきや、現地メディアによると、弾劾訴追案には、反対票を投じたとのことです。
午後9時20分まで待ったものの、投票した与党議員は3人にとどまりました。
(韓国国会 ウ・ウォンシク議長)「大統領の弾劾訴追案に対する投票は不成立となりました」
これで尹大統領は、大統領職にとどまることに―。
8日、会見した与党「国民の力」の韓東勲代表は―。
(与党「国民の力」 ハン・ドンフン代表)「秩序ある大統領の早期退陣で大韓民国と国民の皆様におよぶ混乱を最小化させ、安定的に政局を収拾し、自由民主主義を正します。退陣前も大統領は外交を含めた国政には関与しません」
大統領でありながら、国政に関わらないという異例の事態です。今後はハン・ドクス首相との会合を定例化して、国政に空白が生じないようにすると言います。
一方の野党側は、毎週、繰り返し、弾劾訴追案を提出し続ける方針です。今回は廃案となったものの、なぜ尹大統領は自らの弾劾を招くような「非常戒厳」に踏み切ったのか。

■なぜ「戒厳」?“四面楚歌”が背景か
尹大統領の頭を悩ませたのが、妻のキム・ゴンヒ氏をめぐる疑惑。テーブルの上に置かれた高級ブランド・ディオールのバッグ。このバッグを受け取ったとして収賄疑惑が浮上。
(キム・ゴンヒ氏)「どうしてこんなのを買ってくるんですか?」
これは尹大統領の妻が約30万円のバッグを受け取った様子とされる映像です。
さらに今年4月の選挙戦では…
(井上敦記者)「カメラさんこちらを見てください、支持者の方、ネギがディオールの紙袋に入っています」
高級ブランドの紙袋に「ネギ」。その発端となったのが、尹大統領の金銭感覚のズレでした。
(尹錫悦大統領)「市場にはよく来ていましたが、ネギ875ウォン(約90円)は妥当な値段だと思います」
破格に安いネギを見て、「妥当な値段」と話した尹大統領。
物価高に苦しむ国民からは「物価も知らないのか」と批判を浴び総選挙で与党は惨敗しました。ここで生じた“政権と国会のねじれ”。それが尹大統領を、さらに追い込むことになります。
最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表は。
(野党「共に民主党」 イ・ジェミョン代表)「無能な政権のせいで物価は高騰し、利子も公共料金も上がりました。国民生活が破綻し経済は滅びました」
総選挙以降、尹大統領は国会で法案を通すことができず、逆に野党が通過させた法案などに拒否権を発動して防ぐことしかできない状況に陥っていました。行使した拒否権25回は、民主化以降の大統領では最多です。今月に入ると尹大統領はさらに追い詰められていきます。1日には、政府と与党が提出した来年度予算案に対し、野党が大幅に減額したものを単独で可決。10日には、尹大統領の妻を捜査する「特別検察官」を設置する法案の採決が予定されていました。そして…
(尹錫悦大統領)「私はこれまで非道な行為を行ってきた反国家勢力を必ず撲滅します」

■大統領に“戒厳進言”前国防相を拘束
言論の府を武力で抑え込もうとする試み。
「阻止しろ」「やめろ」
今回の戒厳令は国会や政党など一切の政治活動を禁止し、すべてのメディアを軍の統制下におき、違反者を令状なしに逮捕できるというもの。この強権的な手段を尹大統領に進言し、軍に命令を下していたとされるのが、国防大臣を務めていたキム・ヨンヒョン氏。連合ニュースは8日未明、韓国検察の特別捜査本部が身柄を拘束したと伝えています。
6時間ほどで解除された今回の戒厳令。国会に突入した部隊が命令に従わずに行動していたことも新たにわかりました。
戒厳令当日、キム・ヨンヒョン氏から指示を受けた陸軍特殊戦司令官は…
(クァク・ジョングン 特殊戦司令官)「(キム・ヨンヒョン)国防相に『国会議事堂にいる議員らを外に引きずり出せ』と命令された。それは明白な違法行為で、任務にあたった兵士が法的責任を問われることになるので任務にあたらせなかった。『空砲であれ撃つな』と指示をしました」

尹大統領が宣言した戒厳令。キム・ヨンヒョン氏らが中心となって計画したもので、同じ高校の先輩・後輩の関係であるとも指摘されています。では、その狙いはどこにあったのでしょうか?
戒厳令の当日、気になる動きがありました。発令直後、戒厳軍が投入されたのはソウル近郊の中央選挙管理委員会。その数、国会の280人を上回る約300人。現地メディアは国会に兵士が配備される1時間前の出来事だと報じています。
こちらは建物内部とされる映像です。サーバーが置かれた部屋でしょうか。何やら指をさして、携帯カメラで撮影しているようにみえます。
(キム・ヨンヒョン前国防相 東亜日報の取材に対し)「不正選挙疑惑に関連した証拠確保のためのものだ。この疑惑を解消するために必要な措置を取った」
与党が大敗した4月の総選挙で野党側が不正行為をしていた証拠を探していたのでしょうか。
これに対し野党側は、尹大統領ら3人を首謀者として内乱罪で告発。本格的な捜査が進められています。

12月8日『有働Times』より

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。