国際政治の世界で米国はこれまで、巨大な経済力や軍事力、国際機関を通じた影響力などで覇権を握ってきた。だがロシアや中国を中心に、西側諸国とは異なる別の国際秩序を目指す動きが既に始まっている。米国を中心とした国際機関が掲げる人権、民主主義などの原則が、権威主義国家にとっては体制を脅かすリスクとなるからだ。中国、ロシア、インド、イランなどが加盟する上海協力機構(SCO)は、人権などに関する厳しい条件がなく、加盟国がお互い内政干渉しないことを憲章で明記している。
世界の秩序は、より力のある国、より多くの国が参加するグループによって築かれることが多い。ルールが存在しない分野では、いかに先手を打つかも重要な要素となる。先日現地で取材したルクセンブルクの宇宙産業は、ある意味、国際秩序の空白を突くことを原動力としている。
この人口約65万人の小国は現在、金融に代わる新たな主産業を模索している。目をつけたのが宇宙産業だった。宇宙に関する法的枠組みには、1967年発効の「宇宙条約」がある。だが、宇宙資源開発などの詳細なルールは規定されていない。
そこでルクセンブルクは2015年の米国に続き17年、宇宙で採取した物質の所有権を民間企業などに認める法律を制定した。ルクセンブルクはこの法律と合わせ、宇宙分野の企業の支援、誘致に乗り出し、これまでに約80の宇宙関連機関、企業が同国に進出している。いち早く独自のルールを定めて賛同者を募り、既成事実化する戦略だ。
そして、このルクセンブルクに素早く進出したのが日本の宇宙ベンチャー「ispace(アイスペース)」だった。同国で月面探査車の組み立てを終え、25年1月にも月着陸船を打ち上げる予定だ。月面で採取した土を、米航空宇宙局(NASA)に5000ドルで売る契約も交わしている。ルクセンブルクの法律に基づき、アイスペースは月の土の所有権を主張できる。だが一方で、月面にある資源の所有に関する国際合意はなく、この契約に対し、世界がどんな反応を示すかが注目される。
古い秩序は廃れ、新しい秩序が生まれ、世界はゆっくりと形を変えていく。私たちはこの秩序を巡るせめぎ合いの中にいる。
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