世界遺産になっている洞窟は各地にあります。その中でも、全く違う世界につながっているものを3つ紹介します。
全長約26キロ…ヨーロッパ最大級の鍾乳洞
まずは中央ヨーロッパの「バラドラ・ドミツァ洞窟」。全長約26キロで、ヨーロッパ最大級の鍾乳洞です。入り口はハンガリーのアグテレクという村にあり、なんと別の国・スロバキアにつながっています。バラドラというのはハンガリーでの呼び名、ドミツァというはスロバキアでの呼び名なのです。
番組でも撮影したのですが、高さ19メートルもある石筍(せきじゅん・地面から上に向かって伸びている鍾乳石)には驚かされました。したたり落ちる水に含まれる石灰分が徐々に堆積して出来たもので、実に19万年もかかってここまでの高さになったといいます。
洞窟内には「巨人の間」と呼ばれる10階建てのビルがすっぽり入る大空間もあり、そこにさまざまな鍾乳石が林立する様子は映画のインディジョーンズやトゥームレイダーさながらの異世界感。
スロバキア側は洞窟内に大量の地下水がたまっていて、船で移動しながら撮影しました。こちらには棚田のように段々になった鍾乳石があり、これもまた水に含まれる石灰分が作りだしたものです。
このバラドラ・ドミツァ洞窟は、石灰岩の大地が雨水などで浸食されて生まれました。こうした石灰岩の浸食によって形成された地形を「カルスト」と言います。バラドラ・ドミツァ洞窟は、ハンガリーとスロバキアにまたがる世界遺産「アグテレク・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群」のひとつなのです。
他にも700を超える洞窟が世界遺産になっていて、「カーテン」と呼ばれるひだ状の鍾乳石や「ストロー」と呼ばれる極細の鍾乳石も見ることが出来ます。特に驚かされたのは長さ2.5メートルもあるストロー状鍾乳石。約2万5千年もかけて形成された、まさに悠久の時の流れが生み出した造形です。
「聖なる泉」カリブ海へとつづく水中洞窟
異世界につながる洞窟はメキシコにもあります。ユカタン半島にある世界遺産「シアン・カアン」を空から撮影すると、ジャングルの中に丸い池のようなものが点々とあるのが分かります。
これらは「セノーテ」と呼ばれる泉で、実は水中洞窟の入り口なのです。3000ともいわれるセノーテがあり、それが地下でつながっていて迷路のような水中洞窟が広がっています。
番組で水中撮影を行ったところ、内陸にあるセノーテの中で海にいるはずのウツボを発見。そこから水中洞窟をたどっていくと、抜け出た先はカリブ海でした。つまり内陸のジャングルにあるセノーテとカリブ海は水中洞窟によってつながっていたのです。
ユカタン半島を中心に栄えたマヤ文明は、セノーテを「聖なる泉」として崇めました。水中洞窟では人骨らしきものも撮影したのですが、それは人身御供の習慣があったマヤ人が聖なる泉・セノーテに捧げたものと考えられています。
洞窟河川が生んだ不思議な絶景
3つ目の異世界につながる洞窟があるのは、ベトナムの世界遺産「チャンアンの景観」。空から見ると、森に覆われた山々と川が流れる渓谷というありがちな風景ですが、実は山々を貫く洞窟がたくさんあり、そこを川が流れているのです。
こうした洞窟河川は約50もあり、番組では渓谷から船で出発し、洞窟内を撮影しました。山と川が接するところに洞窟の入り口があり、そこから洞窟河川に入っていきます。抜けるとまた渓谷、そこにまた別の洞窟河川の入り口があり、それが他の渓谷につながっている・・・という具合に洞窟河川によって無数の渓谷がつながっていたのです。
とりわけ異世界感たっぷりだったのは、真ん丸の島が浮かぶ渓谷に抜け出たとき。上空から撮影すると、まるでコンパスで描いたような真円形で人工物のようなのですが、自然の川の流れが生んだものと考えられています。
メキシコのシアン・カアンも、ベトナムのチャンアンもやはり石灰岩の大地です。それが雨水で浸食されて水中洞窟や洞窟河川が生まれました。このように石灰岩と世界遺産は深ーい関係があるのです。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太
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