韓国の国会は7日夜、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案を投票不成立で廃案とした。与党議員のうち8人以上が賛成に回れば可決される情勢だったが、議場で投票したのは3人にとどまった。尹氏は職務停止を免れ、政権は当面、継続する。投票が打ち切られた後、禹元植(ウウォンシク)国会議長は「(投票が200票に届かなかったため)不成立」と述べた。
尹氏の戒厳令宣布を受けた弾劾について、一時は与党内にも賛成の動きが出ていたが、局面を転換したのは尹氏による7日午前の謝罪談話だった。尹氏は、自身の任期(2027年5月まで)を含めた政局の安定策を与党「国民の力」に一任すると述べ、任期の短縮を示唆した。与党に対して、自らの「譲歩」と引き換えに弾劾に反対するよう求めた形だ。
もともと与党内では事態の収拾策として憲法を改正して任期を短縮する案が出ており、尹氏はこれを念頭に置いたとみられる。その結果、当初は弾劾訴追案への賛成を示唆した国民の力の韓東勲(ハンドンフン)代表は姿勢を反対へと一転させた。
韓氏は7日の談話後、「尹大統領は正常な職務遂行が不可能な状況で早期退陣は避けられない」と述べたが、退陣にいたる具体的な道筋は示さず「国民にとって最善の方法を議論する」と強調した。韓国メディアは与党が、尹氏の政権での役割を大幅に減らし、党主導の政権運営をアピールすることで現在の危機を管理しようとしているとの見方を伝えている。
一方、これとは別に最高検察庁は戒厳令の宣布について内乱容疑での捜査を開始している。野党などが尹氏や戒厳軍を指揮した金龍顕・前国防相らを告発していた。内乱罪は大統領の不逮捕特権の例外で、弾劾案が否決された後も捜査は継続する。
世論調査会社「リアルメーター」が4日に18歳以上を対象に行った調査では、尹氏の弾劾に73・6%が賛成している。今後、尹氏の弾劾を求める集会などが拡大するかどうかも焦点となる。ソウルの国会前では7日夜、弾劾訴追案の可決を求める15万人規模のデモが行われた。
尹氏は3日夜、「非常戒厳」を宣布。最大野党「共に民主党」など野党6党は「憲法違反」だとして4日、弾劾案を国会に提出していた。弾劾案の可決には、国会の在籍議員の3分の2に当たる200人以上の賛成が必要。野党と無所属の議員は計192人で、与党から8人以上の賛成票が必要な情勢だった。
弾劾案の採決を前に、与党議員は次々と退席。与党では安哲秀議員だけが残った。提案説明では、共に民主党の朴賛大(パクチャンデ)院内代表が与党議員の名前を順番に叫び、出席するよう求めた。その後、与党議員2人が戻ったが、残り105人は議場に戻らなかった。
廃案を受けて最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表は7日の散会後に弾劾訴追案を再度発議する意向を示し、「クリスマス、年末年始のプレゼントとして皆様に贈る」と述べた。11日に開く臨時国会で再び、弾劾案を発議する意向だという。
一方、国民の力は「国政のまひや中断の悲劇を繰り返すことはできない。国民が納得する政局の収拾策を整え、混乱を最小化する」と立場を発表した。【ソウル日下部元美】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。