ロシアとウクライナの早期停戦を目指すトランプ米次期政権の来年1月の発足を前に、当事者間の駆け引きが活発になっている。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟など、停戦後のロシアによる再度の侵攻を防ぐ方策が焦点の一つで、トランプ次期政権の出方に注目が集まっている。
「我々の支配下にあるウクライナの領土をNATOの傘の下に置く必要がある」。ウクライナのゼレンスキー大統領は、英民放スカイニューズ・テレビが11月29日に報じたインタビューで、停戦の条件を念頭にこう述べた。自国領のうちロシアが実効支配する地域については、当面は返還されなくても、将来的に外交的な手段を通じて取り戻すとの考えも示した。
また、ウクライナメディアによると、ゼレンスキー氏は12月1日、NATO側がウクライナに対して加盟招請の手続きを行う場合には、あくまで「全土」を対象にすべきだと述べた。ロシアとの停戦協議が始まるまでに、西側諸国の軍事支援で自国の立場を強化する重要性を強調した上で、停戦協議には欧州連合(EU)とNATOの代表者も参加するよう求めた。
ゼレンスキー氏は従来、戦闘による全領土の奪還にこだわってきた。だが、その実現の見通しが立たない中、ロシアによる一部領土の一時的な占領は受け入れた上で、安全の「保証」としてNATO加盟を重視する姿勢に転じた。ただ、プーチン露大統領はウクライナのNATO入りを将来にわたって許容しない姿勢で、両者の隔たりは大きい。
こうした中、注目されるのがトランプ次期政権の対応だ。トランプ氏はこれまで大統領「就任前」や「就任後24時間以内」に戦争を終結させるなどと述べ、停戦の仲介に意欲を示してきた。
「トランプ氏は戦争を終わらせるという選挙公約にとても真剣だ。どうするのかは彼次第だ」。トランプ次期政権でウクライナ・ロシア担当特使として停戦協議を取り仕切るとみられているケロッグ氏は2日の米FOXニュースでこう述べた。
ケロッグ氏はかねて、トランプ氏の「予測不可能性」が、米国への敵対的な行動を抑制させてきたと主張していた経緯がある。2日も「彼が何を望んでいるのか言及するのは難しい」と強調した。
ただ、ケロッグ氏は今年4月に発表した提言で、プーチン氏を和平協議の席に着かせるために、ウクライナのNATO加盟の長期凍結を提案すべきだと指摘した。ウクライナに対しては、和平協議への参加を条件に、米国が軍事支援を継続するとの方針を訴えている。
米次期政権の動向を受けて、NATOのルッテ事務総長はロシアに有利な条件での和平合意実現への警戒感を示す。
2日報道の英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、ルッテ氏は、ロシアの軍事産業を支援しているとされる中国や、兵士を派遣している北朝鮮、ミサイルを供給しているとされるイランに言及し、「(彼らが喜んで)ハイタッチするような状況は許されない。長期的には欧州だけでなく、米国にとっても深刻な脅威になる」と指摘した。ルッテ氏は11月22日に米南部フロリダ州でトランプ氏と会談した際、こうした考えを伝えたという。
ルッテ氏は、ロシアによるウクライナ領土の占領を容認した場合、中国が統一を目指す台湾の問題で、中国の習近平国家主席が武力の使用も検討する恐れがあるとの懸念を示している。【ワシントン松井聡】
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