アフリカ最大の難民受け入れ国・ウガンダは、自国でも内戦に伴う殺りくや略奪に一般の人たちが苦しんできた。とりわけ残虐な行為を繰り返した「神の抵抗軍(LRA)」と呼ばれる武装勢力は、国際社会から強い非難を浴びた。子ども兵として人生の大半をLRAの加害行為に加担させられた男性が凄惨(せいさん)な体験を告発する。
「彼らのせいで人生を台無しにされた。未来を奪われた」。ウガンダ北部の都市グルにある職業訓練施設に通うボスコさん(43)は怒りを込めて語る。8人きょうだいの4番目として、北部ランウォ県で育ち、将来は学校の先生か小売店の開業を夢見ていた。
2人の兄とともにLRAに誘拐されたのは14歳だった1995年。早朝、銃を携えた男らが何人も住まいに押し入ってきた。
「あの大きな音がする所まで案内しろ」。ダンスパーティーが開かれていた広場に連れて行くよう脅され、会場に着くと参加していた若者が次々捕らわれた。LRAの兵士らは道沿いの集落でも子どもたちを脅して拘束。ボスコさんやその兄ら、捕らわれた何百人もの若い男女が南スーダン(当時はスーダン)まで数日間歩いて連行された。
村の襲撃、命令され
LRAは南部の民族主体のウガンダの政権に対し、北部の民族が80年代後半から起こした反政府運動をルーツとする。兵力確保や性的奴隷とする目的で子どもの誘拐を繰り返したり、非協力的な住民を虐殺したりして次第に衰退。誘拐された子どもは推定3万8000人以上とされ、幹部の一人は人道に対する罪などで国際刑事裁判所(ICC)から有罪判決を受けた。
連行先の南スーダンでは泣きやまなかった少年2人がボスコさんの目の前で兵士に容赦なく射殺された。ボスコさんは銃を持たされ、射撃訓練を強制された。
「新たな子どもを誘拐し、あらゆる物資を略奪しろ。これで訓練生は卒業だ」。1年ほどたった頃、故郷の東隣にある地域の村を襲撃するようLRAリーダーに初めて命令された。
その後もウガンダや南スーダンなどを転々とし、戦闘や略奪、誘拐を強いられた。「殺される恐怖のあまり、従わざるを得なかった」。一緒に連行された11歳年上の長兄スィストさんは戦闘で犠牲になったと聞いた。
それでもボスコさんは「彼らへの抵抗の意思を失ったことは一瞬たりともない。命令を守るふりをしながら人を殺すことは避け、可能なら捕虜を逃がした。自分なりのせめてもの正義の行いだった」と振り返る。
LRAが統制を失っていた2018年、自分と同じ境遇の兵士やその家族ら約50人で脱退。コンゴ民主共和国を経て、20年、中央アフリカに移り住んだ。本当はウガンダに戻りたかったが、処罰を恐れた。
そんな中、LRA元子ども兵の動員解除や社会復帰支援に現地で取り組む日本のNGO「テラ・ルネッサンス」(京都市)のサポートを受け、23年9月、約30年ぶりに帰郷を果たした。「高齢の母とも再会でき、互いに号泣して喜びを分かち合った」と言う。
現在はグルにあるテラ・ルネッサンスの職業訓練施設で木工家具製作を学んだり、英語の識字教育を受けたりしている。同じようにLRAに誘拐された妻ルーシーさん(32)や、2~13歳の子ども4人との一家6人で暮らす。
「子どもたちに教育を受けさせ、土地を買って自分の家を建てたい。そして、持参金を支払って(内縁の)ルーシーと正式に結婚したい」。奪われたかけがえのない時間を懸命に取り戻そうとしている。【グルで郡悠介、写真・滝川大貴】
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