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アメリカ大統領選はトランプ氏が勝利した。来年1月にはトランプ政権が再び始まるが、ロシアから侵略を受けるウクライナは、米国からの支援継続が見通せない。対中政策も、関税の引き上げ等の強硬策が想定されるものの、台湾有事の際に米国がどこまで防衛に乗り出すのか、不明だ。各国が警戒を強めている。

1)ウクライナ侵攻…トランプ陣営で提案された“終結”策

ロシアによるウクライナ侵攻について、トランプ氏は今年5月、「自分自身がアメリカの大統領なら1日で戦争を終わらせるだろう。24時間以内に戦争は解決する」と発言。しかし、解決についての具体案は示していない。

ウクライナのゼレンスキー大統領は11月7日、「強力で、揺るぎないアメリカのリーダーシップは、世界と公正な平和に極めて重要だ。同時に、侵略を早く終結させるだけならウクライナの損失を意味する」と発言。一方、ロシアのプーチン大統領は、「我々には対話の用意がある。トランプ氏がウクライナ危機の終結を促すためにロシアとの関係を再構築したいという願望は、少なくとも注目に値する」としている。

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トランプ氏はどのように、ウクライナ侵攻を終わらせようとしているのか。ウォールストリートジャーナルは、トランプ氏の「政権移行室」で提案された案として、以下のように報じた。

「ウクライナ政府が20年間NATOに加盟しないと約束して、その見返りとしてロシアの攻撃を阻止するため、大量の武器を供給し続ける」。さらに「この計画では、前線は実質的に固定する。1287キロの非武装地帯を設定して、警備はアメリカではなくヨーロッパが担う」。

杉田弘毅氏(元共同通信論説委員長)は、この案について以下のように分析した。

この案は、副大統領候補のバンス氏が言及し、これに対し前国務長官のポンぺオ氏が「力によってロシアを敗北させる」と主張して、2つの案がトランプチームの中で対立していた。ポンぺオ氏が今回、次期政権の閣僚候補から外れることになったのと合わせると、こちらのバンス案が有力になってきた。 

問題は、実現性がどの程度あるのかだ。基本的にプーチン氏は、ウクライナは全部取りたい。ウクライナが20年間NATOに加盟しないとなれば、キーウに、プーチン氏の望む親ロシア政権を作ることが可能になる。それをさせないためにロシアの攻撃を阻止する目的で大量の武器供給が続くとしているが、一方で大量の武器を供給しても、ウクライナが求めるロシア領への攻撃は依然認めていない。もし攻撃を認めれば、アメリカが言うところの第3次世界大戦になるから、それはやめましょうということだ。この原則はバイデン政権がつくったのだが、おそらくトランプチームも維持するだろう。ウクライナとしては、なかなか受け入れられない話だ。プーチン氏が本当にウクライナを諦めるという保証をどうするのかという問題も残る。とりあえず停戦を実現するための演出という点では意味があるかもしれないが、恒久的な和平に繋がるとは思えない。

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2)対中政策でトランプ氏が衝撃発言 台湾有事のリスクは…

2)対中政策でトランプ氏が衝撃発言 台湾有事のリスクは…

トランプ氏の対外政策で、もう一つ注目されているのが対中政策だ。中国の習近平国家主席はトランプ氏に祝電を送り、圧勝を祝福するとともに、「協力すれば得をし、対立すれば損をする」と警告した。

対するトランプ氏は、関税について、中国以外の国からの輸入品に対しては10%から20%。そして中国からの輸入品に対しては関税を60%にするとしている。さらに中国について、「もし中国が台湾に侵攻するなら、申し訳ないが、中国に対して150%から200%の関税を課すつもりだ」と主張。その一方で、軍事力行使の可能性を問われると「必要ないだろう」と述べた。軍事力は行使しないとする発言だった。

峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)は、このトランプ氏の発言の意味を以下のように分析した。

この発言で最も重要なのは、中国が台湾を侵攻しても、関税しかかけずに、アメリカ軍は派遣しない、と言っている点だ。これは極めて衝撃的だった。中国が台湾を統一しようとする場合に見ているのは一点だけ。アメリカ軍が参戦するかどうかだ。台湾との一対一の対峙であれば、中国は軍事的に十分優勢で、勝てると思っている。トランプ氏が「アメリカ軍を出さない」と発言したことは、台湾有事が早まるリスクがあるとみている。2022年、バイデン氏が「我々アメリカ軍はウクライナに兵を派遣しない」と言った、その約2週間後にプーチン氏が侵略を開始した。それぐらいインパクトがある発言といっていいだろう。 

また、習近平氏の祝電も非常に上手くできている。「協力すれば得をする」という言葉は、ディールが大好きなトランプ氏に刺さる。トランプ氏が今一番イヤなものは、中国に対する貿易赤字。中国が例えばアラスカのLNGをいっぱい買ったり、激戦州の農産物をいっぱい買ったりするオファーをトランプ氏にする。その代わり、台湾については中国に任せてくれとささやけば、トランプ氏がこのディールに応じる可能性は十分にある。そうなれば、中国側は一気に台湾併合に向けて動くだろう。

関税の引き上げは、もちろん短期的なインパクトはある。中国経済に影響は出るが、今の習近平体制の政策目標でいうと、「台湾統一」こそが最も重要だ。そのためには、経済の犠牲は仕方ないと思っている。2021年以降、いくら制裁をかけられても大丈夫なように、できるだけ内需で生きていけるように経済政策も変えており、痛手は最小限に収められるのではないか。

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3)トランプ氏との“信頼関係”構築には… 石破総理が直面する課題

3)トランプ氏との“信頼関係”構築には… 石破総理が直面する課題

トランプ氏の勝利後、世界各国の首脳が続々と電話会談を行っている。石破総理も日本時間の7日、トランプ氏と5分間、電話会談を行った。

峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)は、トランプ氏とのコミュニケーションについて、以下の通り指摘する。

2016年の大統領選直後、安倍氏が誰よりも早くトランプタワーに行ってトランプ氏と面会したのは大きかった。その際同席していたトランプ政権の幹部によると、トランプ氏は安倍氏から外交面で色々とアドバイスをもらって感謝していたそうだ。そして、安倍氏の退室後、隣にいた娘のイヴァンカ氏が「パパ、安倍さんのことは信用したほうがいいよ」と言ったことがきっかけになり、トランプ氏が安倍氏に全幅の信頼を置くようになり、蜜月が始まったのだと。

さらに、生前の安倍氏から聞いたのだが、トランプ氏は長い時間、話を聞かない。3分ぐらいすると飽きてきて、5分ぐらいするとテレビを見ていると。そのため、できる限り、飽きさせずに話をする工夫、例えば、図表がいっぱいある説明資料を作るなど努力をしたそうだ。さらに、重要だったのがゴルフでのコミュニケーション。ゴルフは3〜4時間もカートに一緒に乗るので、その席であれば、在日米軍の駐留経費など難解な話も長い時間をかけてできるから、と。そういうところでコミュニケーションを保ってきたことが功を奏したと言っていた。このあたりは石破総理にも参考になるのではないか。

杉田弘毅氏(元共同通信論説委員長)は、良好な日米関係を保つには、日本の政権基盤の安定化が欠かせないと指摘する。

トップ同士でディールすればその国が間違いなく動くような、強いリーダーをトランプ氏は好む。だからこそ習近平氏を尊敬していると言い、プーチン氏を好きだと言い、北朝鮮の金正恩氏と3回も首脳会談をやっている。日本で過去アメリカと良好な関係を築いた首相も、中曽根氏や小泉氏、安倍氏と、政権基盤がしっかりしていて、在任期間が長期に及んでいた。トランプ氏にとっては「弱い人」と付き合っても、意味がない。トップ外交で合意しても政権基盤の弱さから結局遂行できない。石破氏が政権基盤を固めない限り、アメリカ、特にトランプ氏は残念ながら石破氏を相手にしないだろう。

<解説者>

峯村健司(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。近著に『台湾有事と日本の危機』。『中国「軍事強国」への夢』も監訳。中国の安全保障政策に関する報道でボーン上田記念国際記者賞受賞)

杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学で特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任)

(「BS朝日 日曜スクープ」2024年11月10日放送分より)

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