米国の地対地ミサイル「ATACMS」(韓国国防省提供・ゲッティ=共同)

【ワシントン=渡辺浩生】ロシアの侵略を受けるウクライナに対し、米政府が長射程の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」の供与に踏み切った。米国が供与してきた兵器では最長の射程で、すでに相当数が極秘裏に輸送された。24日に米国で成立したウクライナ向け緊急支援の予算を財源にして供与量を増やす。ウクライナが戦闘の膠着(こうちゃく)を脱し、反攻に出る「ゲームチェンジャーとなる可能性」(米紙ワシントン・ポスト)が期待されている。

「ウクライナの戦況は改善されるとみている」。サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は24日、ATACMSの供与開始を認めた。約600億ドル(約9兆3千億円)の緊急支援予算との相乗効果により、ウクライナ軍の戦力と士気が向上することに期待を示した。

ATACMSの射程は300キロ超で、占領地奥深くの露軍拠点に打撃を加えられる。ロイター通信によると、17日には前線から165キロ離れたクリミア半島の飛行場攻撃で使用された。

ウクライナは一昨年秋からATACMS供与を求めていたが、米側が在庫不足を理由に渋っていた。露国内への攻撃に使われ、米露の直接衝突に発展するリスクを懸念したとみられる。

サリバン氏によると、バイデン大統領が2月、ウクライナ領内での使用を条件に「相当数の供給」を指示し、3月に輸送を開始した。供与に踏み切ったのは、米防衛産業の供給態勢が整い、露軍が北朝鮮製の弾道ミサイルで民間インフラへの攻撃を激化させたからだとしている。

バイデン氏はロシアの侵略開始以降、西側仕様の戦車やF16戦闘機など、ウクライナが求めた兵器供与を許可するまでに長時間を要した。プーチン露大統領が軍事行動をエスカレートさせるリスクを測ったためだが、そのたびに「時機を逸した」と野党・共和党や軍事専門家に批判された。

緊急予算は、ATACMS供与をわざわざ明記し、大統領が国益上の理由で供与を中止する際には説明を求める条文も盛り込んだ。議会はバイデン氏の腰が引けるのを警戒したようだ。

米シンクタンク「戦争研究所」は24日、供与の遅れにより、露軍はATACMSの効果を減らすための「時間的猶予」を得た可能性があると指摘。その一方、「十分な量が届けば、ウクライナは露軍の補給を劣化させ、後方の航空基地を脅かせる」と分析した。

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