2023年のイスラム組織ハマスの越境攻撃後、イスラエルを訪れてネタニヤフ首相(右)と会談したバイデン米大統領=イスラエル中部テルアビブで同年10月18日、ロイター

 パレスチナ自治区ガザ地区でイスラム組織ハマスとの戦闘を続けてきたイスラエルに対し、バイデン米大統領が不満を公言するようになっている。人道状況の悪化に伴い自身への批判が高まっており、11月の大統領選に向けて批判を抑えたいという思惑も透ける。一方で、イスラエルがどの程度人道状況の改善に取り組むかは不透明で、バイデン政権は難しいかじ取りを迫られている。

 「彼は間違いを犯したと思う。彼のやり方には賛同できない」。バイデン氏は9日に放送された米国のスペイン語放送「ユニビジョン」のインタビューで、イスラエルのネタニヤフ首相を強く批判した。さらに「食料や薬をすべて搬入できるようにするため、イスラエルに6~8週間の停戦を求める」と要求した。

 4日にあったネタニヤフ氏との電話協議では、民間人や援助関係者の保護を強く求め、イスラエル側の対応に変化がなければ、米国の政策を見直す可能性があると警告していた。

 バイデン氏は2023年10月にハマスがイスラエルを越境攻撃した直後から、イスラエルによる掃討作戦を支持してきた。だが長引く戦闘で犠牲者が増えたことに加え、食料不足など人道危機も深刻化。与党・民主党内からもイスラエルに対して強い姿勢で臨むよう求める声が強まった。

 さらに追い打ちをかけたのが、米NGO「ワールド・セントラル・キッチン」(WCK)のスタッフ7人が1日にイスラエル軍の無人機(ドローン)攻撃で死亡した問題だ。うち6人は米国籍など外国人で、犠牲者の出身国に衝撃が広がった。バイデン氏はWCKの代表者とも親交があり、電話で哀悼の意を伝えたという。この攻撃をきっかけに、バイデン氏はネタニヤフ氏を公然と批判するようになった。

 一方で、バイデン氏は不満を表明しながらも、イスラエルの自衛権を支持する姿勢自体は変えていない。ユダヤ系の政治的影響力は強く、大統領選に向けて無視できないことも一因だ。ユダヤ系の人口は米国全体の2%程度だが、巨額の資金を有する複数のユダヤ系ロビー団体が活動。中でも「米国イスラエル公共問題委員会」(AIPAC)の動きは活発で、掃討作戦への支持を訴えている。

 こうした中、バイデン政権はガザ地区の人道状況改善への取り組みを強調することで、世論の批判をかわそうと躍起になっている。ホワイトハウスのジャンピエール報道官は11日、バイデン氏がネタニヤフ氏に対応を迫って以降、「1000台以上のトラックがガザに入った。十分ではないが良い進展だ」と述べた。ただイスラエルがどこまで改善に取り組むのかは見通せず、バイデン政権は今後も対応に苦慮しそうだ。【ワシントン松井聡】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。