弟らが人質になっているオフリ・ビバス・レービさん(左)。机には過ぎ越し祭で食べるマッツァがあった=イスラエル南部ニルオズで2024年4月11日午前11時36分、松岡大地撮影

 ユダヤ教徒の「出な集落には、今も焼け焦げた家や銃弾の痕がついたエジプト」を祝う「過ぎ越し祭」を前に、イスラエル南部のキブツ(生活共同体)ニルオズで11日、パレスチナ自治区ガザ地区に拘束されている人質の解放を求めるイベントが開かれた。

 ガザから約2キロの場所にあるニルオズは1955年に設立され、約400人が暮らしていた。だが昨年10月7日、ガザを支配するイスラム組織ハマスによる越境攻撃で、4分の1の住民が人質に取られたり、殺害されたりした。緑豊かでのどか窓ガラスが残る。

 旧約聖書によると、指導者モーセはエジプトで奴隷として苦しんでいたユダヤ人を率い、圧政を逃れた。22日から始まる「過ぎ越し祭」はこれにちなみ、自由や解放を祝う。夕食には家族らがそろってワインや「マッツァ」と呼ばれるクラッカーを食べる習慣があり、11日のイベントでは、集落の人たちがかつて集った公民館の机にマッツァなどが並べられた。

 4歳や生後9カ月だった子どもを含む弟家族が人質に取られているオフリ・ビバス・レービさん(37)は「(弟夫婦の)子どもたちが過ぎ越し祭で本を読んでもらったり、遊び回ったりしている姿が目に浮かぶ。全世界が、この悪夢に終止符を打つために叫ぶ時が来ているのではないか。私の家族を返してほしい」と涙ながらに訴えた。

大規模な戦闘から半年がたった今も、焼け落ちた民家はそのまま残っている=イスラエル南部ニルオズで2024年4月11日午後0時4分、松岡大地撮影

 戦闘開始から半年が過ぎた今も、多くの人は集落には戻らず、避難生活を続けている。父親が人質となっているノーアム・ペリさん(41)もその一人だ。ペリさんは「この集落でテロリストが侵入しなかった家はない。生き残った人もトラウマを抱え、人間に対する信頼や自信を取り戻すには時間がかかる」と話した。

 ガザでは100人近くのイスラエル人らが拘束されており、人質解放を巡って米国やカタールなどが仲介する交渉が続く。ペリさんは「がっかりしないように、交渉にはあまり期待しないようにしている」と語り、その上で「過ぎ越し祭の前に、手遅れになる前に、父を返してほしい」と懇願した。【ニルオズで松岡大地】

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