イスラエル軍の空爆を受けた現場=ベイルート郊外で2024年9月27日、ロイター

 中東メディアは27日、イスラエル軍がレバノンの首都ベイルート郊外にあるイスラム教シーア派組織ヒズボラの「中央本部」に対し、大型の地下貫通弾(バンカーバスター)を使って破壊したと報じた。

 本部は民間住宅の地下に設置され、ヒズボラの最高指導者ナスララ師を標的とする攻撃だったとみられる。

 ヒズボラを支援するイランのアラグチ外相は27日、国連安全保障理事会の会合で、イスラエルが米国製の地下貫通弾を数発使用したと非難した。現場では多くの死傷者が出ているとみられるが、ナスララ師の安否は確認されていない。

ヒズボラの指導者ナスララ師の写真を掲げる少年=レバノンで2024年9月19日、ロイター

 イスラエルメディアによると、今回の軍事作戦は今週、閣議で承認され、ネタニヤフ首相らに決定を下す権限があった。ナスララ師らが現場にいるという情報に基づき、実行直前に最終決定がなされたという。

 レバノン国境に近いイスラエル北部では、昨年10月のヒズボラとの戦闘開始後、住民6万人以上が避難生活を余儀なくされている。

 イスラエル軍はヒズボラを国境から遠ざけるため、これまでも幹部を狙った空爆を続けてきたが、ヒズボラの攻撃姿勢は変わらず、避難民は不満を募らせてきた。今回、ナスララ師を標的にしたことで、ヒズボラに軍事行動の変更を強く迫った形だ。

 イスラエルは、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとの戦闘を抱え、ハマスの戦力を上回るヒズボラとの「二正面作戦」には慎重だった。ただ、イスラエル軍は既にハマス大隊のほとんどを壊滅させ、ハマスの軍事力は大きく低下。その結果、軍は北部戦線に兵力を割く余裕が生まれ、ヒズボラとの紛争拡大に対応できる状況となった。

レバノンの首都ベイルート南郊で立ち上る煙=2024年9月28日、ロイター

 ハマスに連帯するヒズボラは、ガザ地区の戦闘が終われば停戦すると主張。ただ、イスラエル軍の駐留や撤退などを巡り、交渉は平行線をたどり、イスラエルとハマスが停戦合意する見通しは低い。仮に停戦合意しても、ヒズボラの脅威は残る。イスラエルがこの機にヒズボラの軍事力を弱体化できれば、安全保障上の利益は大きい。

 ただ、イスラエルの思惑通りに行くかは見通せない。ヒズボラは、イスラエル中部テルアビブに弾道ミサイルを発射するなど攻撃範囲を徐々に広げている。仮にナスララ師が殺害されれば、激しい報復を招き、地上戦を含めた全面衝突に突入する可能性がある。【エルサレム松岡大地】

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