イスラエルの空爆後、煙が上がる様子=レバノン南部で2024年9月25日、ロイター

 イスラエル軍がレバノンの親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの攻撃を激化させている。23日にはレバノンへの大規模な空爆で500人を超える死者を出し、24日には首都ベイルートで複数の幹部を殺害した。全面衝突のリスクが高まるにもかかわらず、イスラエルはなぜこのタイミングで大規模な攻撃を仕掛けたのか。

 「我々はヒズボラを攻撃し続ける。リビングにミサイルを置いているものたちの家は、なくなるだろう」。イスラエルのネタニヤフ首相は24日、情報機関の基地を訪れた後こう語り、ヒズボラを強くけん制した。

 一連の大規模な攻撃は、ヒズボラ戦闘員らが持っていた通信機器が17、18日、イスラエルによるとみられる工作で一斉に爆発してから本格化した。イスラエル軍は20日、空爆で司令官を殺害。24日には1日で1600カ所を空爆したと発表。立て続けに攻撃を加えた。

 通信機器の爆発でヒズボラに「衝撃」を与え、その機に乗じて波状攻撃を仕掛けることで、ヒズボラの士気を下げる狙いがあった可能性がある。イスラエル軍のハレビ参謀総長は24日「攻撃を加速させ、ヒズボラに休息を与えない」と述べた。

 「ヒズボラの脅威を低下させ、戦闘員を国境から遠ざけることだ」。イスラエル当局者は、一連の大規模な空爆の狙いについて語った。

 イスラエル北部では昨年10月のヒズボラとの戦闘開始後、レバノンとの国境付近に住む住民6万人以上が避難生活を余儀なくされている。イスラエル軍はこれまでもヒズボラ幹部や戦闘員に対して攻撃を続けてきたが、ヒズボラの行動を変えるには至らず、避難民は不満を募らせてきた。今回の空爆はヒズボラのミサイルやロケット弾の貯蔵施設を中心に爆撃しており、ヒズボラの攻撃力を弱体化させてイスラエルへの砲撃を減らす目的があるようだ。

 また、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとの戦闘が優位に進んでいることも背景にあるとみられる。ガザ地区ではイスラエル軍がほぼ全域を制圧し、ハマスのインフラ施設などを破壊した。その結果、北部の戦線に兵力を割く余裕が生まれ、ヒズボラとの紛争拡大に対応できる体制ができたと判断した可能性がある。

 ヒズボラはガザ地区の戦闘が終われば停戦すると主張している。ただ、イスラエルにとってヒズボラは長年にわたる脅威となっており、この機に大幅に弱体化させられれば、安全保障上の利益は大きい。イスラエル当局者は米CNNテレビに対し、イスラエルの戦時内閣は軍事作戦のレベルを高めることで一致していると述べた。

 ただ、イスラエルの思惑通りに行くかは不透明だ。ヒズボラはイランが支援する中東の武装勢力の中では最大規模の組織で、予備役を含めて4万5000人の兵力を抱えているとされ、軍事力はハマスを上回る。25日にはイスラエル中部テルアビブの対外諜報(ちょうほう)機関「モサド」の本部を狙い、弾道ミサイルを発射するなど、徐々に攻撃範囲を広げており、譲歩する姿勢は見せていない。

 このまま互いに強硬姿勢を続ければ衝突がさらに拡大するのは避けられず、最終的には地上戦を含めた全面戦争に突入するリスクもある。【エルサレム松岡大地、金子淳】

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