中国南部・広東省深圳市で深圳日本人学校の男子児童(10)が登校中に中国人の男性(44)に刺殺された事件は25日で1週間を迎えた。中国当局は今回の事件について動機や背景などは一切説明していないため、在留邦人社会の不安解消にはつながっていない。日本政府による対策も、まだ「安心安全」のためには課題が大きい。
「できるだけ外出は控えている。日本人を狙ったものなのかも分からず恐ろしい」。北京市内の日本人学校に男児を通わせる30代の女性は不安そうに心境を語った。どうしても外出しなければならない場合も、周囲に不審者がいないか確認し、日本語で話すのを控えているという。
長女を北京市内の幼稚園に通わせる40代の男性駐在員は「幼稚園の送迎では日本の子供と分からないよう着衣に気をつけている」と明かす。「6月に蘇州で、今回は深圳で事件が起きた。このままだと第三、第四の事件が起きる」と危機感をにじませる。
保護者にとって最優先なのが日本人学校の登下校時の安全確保だ。外務省は今年6月に江蘇省蘇州市で日本人母子らが刃物で襲われた事件を受け、2025年度予算案の概算要求に中国の日本人学校のスクールバスの警備員配置費用として3億5000万円を計上。今回の深圳での事件が発生すると、急きょ今年度予算から約4300万円を拠出してスクールバスの乗車時や学校周辺の警備強化を図る方針を示した。
中国にある12校の日本人学校には約3700人の児童・生徒が在籍しており、地域によってはスクールバス自体が不足。今回の事件のように徒歩で通学する児童・生徒もおり、全員の安全確保に向けた対策としては不十分だ。
23日に北京の日本大使館で開催された柘植芳文副外相と、中国日本商会、北京日本人学校などの関係者による緊急会合でも、出席者から「徒歩通学の撲滅」などの要望が出された。
在中日系企業の間では「日本企業の駐在員とその家族の安全安心は、中国でビジネスを持続する上で基本中の基本」(同商会の本間哲朗会長)と、社員の一時帰国を認めるケースも出ている。アステラス製薬の日本人男性社員がスパイ行為に関わったとして中国当局に拘束・起訴された事件などもあり、米中関係の悪化などを受けて社内外から中国事業への見直し圧力を受ける企業も増えている。今回の事件を受けて経済面での「中国離れ」が加速しかねない。
また両国の国民感情の悪化も懸念される。今回の事件を受け、外務省は19日、中国在留邦人や渡航者に対して注意を呼びかけたが、一方で在日中国大使館も24日、国慶節の大型連休を前に日本を訪問する自国民に対し「現在の情勢を踏まえ、警戒を強めるように」との注意喚起を出した。【北京・岡崎英遠、小倉祥徳】
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