国賓待遇で訪米中の岸田文雄首相は、8~11日の首都ワシントン滞在中に英語でスピーチする機会が2度あった。幼少期に米国で過ごした経験があるが、普段は外交の場でも正確を期すために通訳を交えることが多い。今回は原稿通りに慎重に話す姿が目立ったものの、英語で何度も笑いをとりながら無難に乗り切った。
「日本の国会では、これほどすてきな拍手を受けることはまずありません」。11日の連邦議会上下両院合同会議での演説冒頭、首相は野党から批判を受けることが多い国会を念頭にジョークで沸かせた。
さらに傍聴席にいた妻裕子氏を紹介した後、「裕子と結婚した一事をもって、私の決断全てが正しいと信用していただけるのではないでしょうか」と発言。米国での幼少期の思い出としてアニメ「フリントストーン」を紹介し、「(作中のせりふ)ヤバダバドューの意味を日本語に訳すことができなかった」とジョークを飛ばした。
11日に国務省で開かれた昼食会では、ブリンケン国務長官が「合同会議での演説でフリントストーンに触れたのは史上初めてでは」と話題にした。ハリス副大統領も「ヤバダバドゥーが訳せないというのが特に心に残った」と応じた。共和党のキャピト上院議員も取材に「演説内容もよかったが、個人的には首相のユーモアが気に入った」と語った。
首相は10日夜の公式夕食会でも、恒例の英語でのゲストスピーチに臨んだ。1960年代に、当時のケネディ米大統領が首相と同じ広島県出身の池田勇人首相に「太平洋は日米を分かつものではなく、むしろ両者をつなぐものだ」という言葉を贈ったエピソードを披露し、「私が好きでスピーチで多用し過ぎるため、スタッフはこのフレーズが原稿にあると削ろうとする」とジョークで沸かせた。
同様のスピーチでは、2023年4月に国賓として訪米した韓国の尹錫悦大統領が、若い頃に聴いていた70年代のヒット曲「アメリカン・パイ」を歌って、招待客やメディアの話題をさらったことがある。岸田首相のスピーチはそうしたインパクトには欠けたが、ジョークをちりばめ、バイデン米大統領からは「よかったよ」とねぎらわれた。【ワシントン秋山信一】
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