中東のレバノンで爆発が相次ぎました。標的となったのは、ここを拠点とするイスラム組織『ヒズボラ』です。爆発したのは、メンバーたちが所持していたポケベル数千台で、レバノン全土が大混乱に陥りました。

■ヒズボラ狙い イスラエル関与か

爆発は、レバノン全土で1時間にわたって起きたといわれています。現場には、ポケベルの残骸とみられるものも残されていました。爆発したポケベルは数千台に上っています。分かっているだけで死者は12人、負傷者約2800人という膨大な数です。腹部をケガしている人が多く目につくのは、その位置にポケベルを入れるホルダーがあったからでしょうか。

レバノン アビアド保健相
「多くのけが人が緊急処置室に搬送されました。首都近郊や南部など様々な地区からの搬送で、200人は重篤な状態。手術を必要としています」

標的になったのは、イランが後ろ盾にいるヒズボラの構成員だとみられますが、現地に駐在するイランの大使もけがをしたとみられています。

■なぜポケベル…“携帯禁止”後の代案に

この事件、海外メディアの多くがイスラエルが関与していると報じていますが、どうやって大量のポケベルを爆破したのか。目的はなんだったのか。そもそもなぜポケベルだったのかなど、謎だらけです。

ポケベルは、電波を使って数字や簡易的なテキストを受け取れる通信端末のこと。ポケットに入る大きさで持ち歩きやすく、携帯電話がまだ普及していなかった時代、待ち合わせや呼び出しなどで活躍したコミュニケーションツールです。PHSや携帯の台頭によって需要はほとんどなくなりましたが、半年ほど前、ヒズボラのトップがこんな指令を出しました。

ヒズボラ最高指導者 ナスララ師
「携帯を持つな。埋めるか、鉄の箱に入れてカギをかけよ。人々の安全のため、血と尊厳を守るのが目的だ。諸君の携帯電話こそスパイだ。妻や子どもたちの手にもある。携帯電話こそがスパイであり殺人犯だ」

スマホなどは、ハッキングによって位置情報がバレたり、盗聴される危険性が高いと判断しました。その代わりとなる通信端末として手配したのが、5000台のポケベルだったといわれています。

CNN主席アナリスト ジョン・ミラー氏
「諜報部員としては切り替わるタイミングが狙い目になる。ポケベルは久しく使われていないが、まだ使い道はある。ポケベルに切り替えたのを受け、イスラエルはこう考えたのでしょう。『この供給網に入り込み、ポケベルを利用できないか』と。ヒズボラによれば、ポケベルが届いたのは何カ月も前。つまり、この攻撃がイスラエルによるものならば、大部分がヒズボラ幹部に行き渡ったと確信できるまで待っていたことになる」

■内部に“爆薬”起爆は“メッセージ”か

どうやってポケベルを爆発させたのか。有力なのが、ポケベルがヒズボラに届く前に爆薬が仕込まれたという見立てです。

ニューヨーク・タイムズ
「アメリカ政府関係者などによると、爆発物の量はわずか20〜50グラム程度で、バッテリーの横に仕掛けられていた。遠隔で起爆させるスイッチも仕込まれていた。ポケベルにはヒズボラ幹部から発信されたものに見せかけたメッセージが送られ、それを受信することで爆発物が起動した。画面をのぞき込んだ人が顔や目を負傷するケースも相次いだ」

一部メディアは、ポケベルの中にはプラスチック爆弾の原料である高性能爆薬『ペンスリット』が入っていたとも伝えています。熱に鈍感なため、バッテリーの熱で爆発することがありません。中に忍ばせるにはうってつけの代物です。

どうやってこの細工を行ったのか。残骸の画像などから、台湾にある会社の製品だと指摘されましたが…。

ゴールド・アポロ 許清光会長
「あの製品は私たちのものではなく、輸出したものでもありません。3年前からヨーロッパに代理店があり、うちのブランド名を使ってポケベルを製造しています」

レバノンで使われたのは、提携しているハンガリーの企業が製造しているそうで、自分たちは無関係だと話しています。ハンガリーの企業には質問を送りましたが、今のところ返信はありません。

■民間人に死者 国連が非難

イスラエルは、1996年にハマスの構成員の携帯電話に爆弾を仕掛け、殺害した過去があります。ただ、今回のように、数千台のポケベルに爆薬を仕掛けるような手口は前代未聞です。

起爆の瞬間、ターゲットがポケベルを身に着けているかの保証などありません。民間人を巻き込む危険性が高く、事実、この爆発で幼い子ども2人が命を落としています。

国連の高官は、国際人道法に従い、民間人は攻撃対象ではなく、常に保護されなければならないと強く非難しています。

イスラエル側は、この爆発ついての関与を否定も肯定もしておらず、一切コメントしていません。

ヒズボラは構成員に対し、ポケベルを使わないよう呼び掛けつつ、イスラエルへの報復を示唆しています。

■イスラエルとの応酬激化のなか…

今回の爆発事件に関して、レバノンの治安当局者は「イスラエルの諜報機関がポケベルに爆発物を仕込んだ」と主張しています。

去年10月のハマスによるイスラエルの攻撃以来、ハマスに連帯を示すヒズボラもイスラエルに攻撃を仕掛け、双方で軍事的な応酬が続いています。今年7月以降、応酬は一層激しくなり、イスラエルのネタニヤフ政権は今月17日、ヒズボラへの対応を新たな軍事作戦の目標に加えることを閣議決定したばかりでした。

(Q.ポケベルはどのようにしてヒズボラに渡ったのか)

海外メディアによると、今回爆発したポケベルは、ヒズボラが5000台を発注し、今年春にレバノンに持ち込まれたと報じられています。その理由について、イスラエルの諜報機関からGPS機能で追跡されるのを防ぐため、ヒズボラは今年2月、携帯電話からポケベルに切り替えたという報道もあります。

(Q.日本ではすでにポケベルのサービスは終了しています。海外では使われているのか)

今回爆発したポケベルがどういう仕様かは分かっていませんが、一部海外では現在も無線の送信機を使って、特定の個人やチームに短いメッセージを送れる仕組みを使い、医療機関などで迅速な連絡に使われているといいます。

(Q.ポケベルが爆発した仕組みは)

海外メディアは、爆発の直前に約10秒間ポケベルが鳴り、メッセージを確認するために目や顔に近付けたところ爆発したと報じています。

元警察庁で爆発物の専門家に話を聞きました。

元警察庁 爆発物の専門家
「少量で殺傷力が高い軍事用の爆薬を10〜20グラム程度使ったのではないか。この爆薬は電気的な起爆装置で爆発するので、信号を受信したうえで、スイッチやアラームなどを起爆のために使ったのでは」

(Q.爆発物はどのタイミングで仕込まれたのか)

海外メディアは、レバノンに輸入される前にイスラエルが爆発物を埋め込んだとも報じています。

イスラエルが行ったとすれば、どうやって行ったのか。諜報事案の研究・調査を行っている稲村悠さんに聞きました。

日本カウンターインテリジェンス協会 稲村悠代表理事
「爆発物を仕込むタイミングから逆算すると、今回の作戦を行うには、イスラエル側がヒズボラがポケベルを導入するという情報を相当前に入手していたとしたと推測される。ヒズボラの内部にイスラエルの諜報員および協力者がいて、契約から製造・納品までのサプライチェーン上のいずれかの段階で“イスラエルが関与しやすい企業”を選んだのではないか。数千という台数の多さ、パッケージを開封する手間を考えると、製造段階で爆発物を仕込んだ可能性も考えられる」

今回の爆発事件に関し、現時点でイスラエル側は正式なコメントを出していません。

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