拘束され、捜査員とみられる男性らにワゴン車に連れ込まれる日本人男性=ベラルーシ国営テレビの特別番組から

 ベラルーシで日本人男性がスパイ容疑で拘束されたことを巡り、同国国営テレビが、男性の「指示役」として名指しした会社経営の知人男性が毎日新聞の取材に応じ、「(番組は)全くのデタラメで、私も彼もスパイなはずがない」と語り、一刻も早い解放を訴えた。

 番組は、拘束された男性と知人男性の無料通信アプリ「LINE(ライン)」でのやりとりも報じたが、日本語を全く意味が異なるロシア語に「改ざん」していた。

 事件を巡り、ロシアの同盟国で、対日関係が悪化しているベラルーシ政府の思惑が働いている可能性もある。

 関係者によると、スパイ容疑で拘束されたのは中西雅敏さん。2018年にベラルーシ人女性と結婚して現地に移住し、南東部のゴメリ国立大で日本語教師をしていたという。

 知人男性は、前妻の兄である中西さんとは同世代だったことから親近感を覚え、中西さんの移住後も年に数回、簡単な近況報告をする間柄だった。最後に連絡をとったのは今年4月で、あいさつ程度の内容だったという。

拘束された男性と知人男性の、無料通信アプリ「ライン」を通じたやりとり。投稿には「最近の攻撃は米国のでっちあげのようだ」とするロシア語の訳があてられている=ベラルーシ国営テレビが5日に放映した特別番組から

 番組では、男性は日本の国家公安委員会の関係者で、スパイ活動の指示役とされ、その「証拠」として、2人のやりとりが紹介された。

 ただ、中西さんは日本語で「日本企業(の進出)にメリットは少ない。中国のパワーは凄(すご)いものがある」などと投稿していたが、番組では「最近の攻撃は米国のでっちあげのようだ。信頼できるのは自分の情報網だけ」などと訳されていた。

 男性によると、このやりとりは数年前のもので、ベラルーシへの企業進出について興味本位で聞いたことに対する、中西さんの返答だったという。男性は「自社商品が海外でも需要があるか気になっただけで、経営者ならごく当たり前の雑談」と話し、「国営放送があんなに堂々とうそをつくなんて信じられない。なぜ自分も巻き込まれたのか、いまだに見当がつかない」と語った。ベラルーシ側からは何の連絡もないという。

 男性は中西さんについて「(ベラルーシで)日本文化を伝えようと頑張っていた。スパイ活動をしていたというのは信じられない。一刻も早く元気に帰国してほしい」と語った。

 事件を巡り、日本政府は、番組に「問題がある内容が含まれていた」としてベラルーシ側に抗議した上で、中西さんについて「できるかぎり支援する」と表明。一方、ベラルーシ外務省は日本の駐ベラルーシ大使に対し、自国の安全保障が損害を受けたと抗議している。

 22年に始まったロシアによるウクライナ侵攻を巡り、ベラルーシは自国領から露軍が攻撃することを容認。日本を含めた西側諸国から経済制裁を受けている。【国本愛】

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