米大統領選候補者のテレビ討論会に参加した共和党のトランプ前大統領(左)と民主党のハリス副大統領=米フィラデルフィアで2024年9月10日、AP

 米大統領選に向けた10日の討論会では、民主党候補のハリス副大統領(59)が、共和党候補のトランプ前大統領(78)に対し、経済安全保障を含めた対中貿易政策で攻勢を強めた。経済分野では物価上昇(インフレ)問題を中心にバイデン政権を批判して勢いを強めてきたトランプ氏だが、今回は押され気味となった。

 「16人のノーベル経済学賞受賞者が、彼(トランプ氏)の計画はインフレを加速させると述べている」。ハリス氏は討論会前半の経済問題を巡る討議で、トランプ氏の掲げる野放図な関税率の引き上げが米国内の物価を押し上げると指摘した。

 トランプ氏は米国内産業を保護するため、中国からの輸入品に60%超、日欧を含むすべての国からの輸入品に10%超の関税を課すと公約している。ただ、安価な中国製の日用品などにかかる関税を大幅に引き上げれば、米国内での販売価格上昇を招く恐れが強い。

 そうした懸念から、ジョセフ・スティグリッツ氏ら著名経済学者をはじめ、官民の多くの専門家が「トランプ氏の経済政策は米国のインフレを再燃させる」と警告している。ハリス氏はこれらの見解を踏まえて追及したわけだ。

 これに対し、トランプ氏は「私はインフレとは無縁だ」とまともに応じず、「こんなひどいインフレは見たことがない。人々は卵もベーコンも買えない」などと誇張も交じえて一方的な批判をまくし立てた。

 6月にあったバイデン氏との討論会では、これを繰り返すだけで優位に立てたトランプ氏。だが、今回はそうはいかなかった。

 ハリス氏はトランプ氏の対中貿易政策に関し、経済安全保障を絡めて「トランプ政権は米国の半導体を中国に売り、中国軍が近代化するのを結果的に手助けした。対中競争で我々を売り渡した」とたたみかけた。

 バイデン政権が軍事転用への懸念から先端半導体などの対中輸出を厳格に規制したのに対し、トランプ政権下では米国から中国へ半導体などの重要物資が輸出されていたことを突いた。

 ところが、トランプ氏は「バイデン政権が台湾から半導体を購入するようになったことで、米国はほとんど半導体を生産しなくなってしまった」と答弁。中国と対立する台湾は米国にとって安定的な半導体供給網を構くためのパートナーであり、かみ合わない答弁となった。

 トランプ氏はその後も「皆が知っていることだが、彼女はマルクス主義者だ」「彼女は経済政策で無策だ」などと、根拠や中身に乏しい批判を繰り返した。【ワシントン大久保渉】

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