首相職の引き継ぎ式に出席するバルニエ新首相=パリで5日、ロイター

 フランスのマクロン大統領は5日、新首相に元外相で、第4党の右派・共和党出身のミシェル・バルニエ氏(73)を指名した。6~7月の国民議会(下院、定数577)選ではどの政党グループも過半数に届かず、マクロン氏は各党に配慮し、バルニエ氏を選んだ。だが、選挙で最多の議席数を獲得した左派連合は強く反発しており、仏政界は今後も混迷が続きそうだ。

 「フランスには今こそ結束と融和が必要だ」。バルニエ氏は5日、首相府での就任演説でそう述べた。国民議会選の決選投票から60日。バルニエ氏の指名は、マクロン氏が苦難の末に出した結論だった。

 国民議会選では、社会党や共産党、急進左派「不服従のフランス」(LFI)などで構成する左派連合が182議席を獲得。マクロン氏率いる中道の与党連合が168議席、極右の国民連合が143議席を得たが、どのグループも過半数に達しなかった。

 フランスでは、内政を担う首相の指名権は大統領が持つ。法的義務はないものの、これまでは政治を安定させるため、議会最大グループから指名するのが慣例となっていた。

 だがマクロン氏は、議席数首位の左派連合からの指名を拒んだ。左派連合は政権が進めてきた年金改革などに反対の立場を取る。また左派連合を構成する急進左派のLFIに対し、与党連合や共和党、極右・国民連合の反発は強く、左派連合の首相が就任しても、即座に不信任案が出される懸念があった。

 マクロン氏は、社会党出身で穏健なカズヌーブ元首相や、共和党出身で、国民連合も支持しやすいとみられたベルトラン元労働相と面会し、首相への起用を検討したが、不調に終わった。

 次に登用を探ったのは、政治家ではなく、政府の諮問機関「経済社会環境評議会(CESE)」の議長を務めるボーデ氏だった。だが移民政策などの考え方が左派に近いことなどから、国民連合が反対したという。

 バルニエ氏が起用された要因は、比較的厳しい移民政策などを唱えており、国民連合の支持を得られたことだ。与党連合と共和党、国民連合を合わせれば過半数に達し、不信任案を否決できる。国民連合のルペン前党首は「バルニエ氏は寛容な移民政策というばかげた考えを持っていない。他党の主張に耳を貸すという、私たちが求める最初の基準に達している」と述べた。

 また、バルニエ氏は英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)時に、EUの首席交渉官として交渉にあたり、タフネゴシエーターとして知られる。アタル前首相は仏メディアに「バルニエ氏の交渉力が、現在の政局の打破に生きるはずだ」と語った。

 一方で、国民議会選で首位に立った左派連合ではなく、47議席の4位に沈んだ共和党出身のバルニエ氏の起用は、左派の反発を招いている。LFIのメランション氏は「選挙結果を奪われた」と抗議。国民議会選では、「極右首相」を防ぐため、左派連合と与党連合が選挙協力を進めたことを引き合いに「我々は国民連合の政権獲得を阻止した。だがその国民連合に最も近い人物が選出された」と批判した。

 社会党は「この重大な状況は、民主主義者として受け入れられるものではない」との声明を出した。左派連合は新内閣に不信任案を提出することを宣言。7日に大規模な抗議デモを実施することを国民に呼びかけている。

 仏政界は当面、不安定な状況が続きそうだ。国民連合のバルデラ党首はX(ツイッター)で、新首相への要望として「我が党が求めるのは国民連合の支持者を尊重することだ。バルニエ氏の今後の言動や予算の決定などをみて、支持するかどうかを判断する」と述べた。また、生活費や治安、移民問題を最重点項目に挙げ、支持できない場合は「あらゆる政治的手段を講じる」と強調した。

 国民議会選の決選投票で「排除」された国民連合が、新政権運営のカギを握る状況を、仏メディアは「国民連合の奇妙な勝利」(ルモンド紙)などと報じている。【ブリュッセル宮川裕章】

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