バイデン大統領の撤退から1か月。ハリス副大統領を大統領候補に選んだ民主党には勢いが生まれ、世論調査の支持率ではハリス氏が共和党のトランプ前大統領を圧倒するものも出てきている。
ただ、今回のトランプ陣営は選挙戦略が2016年・20年に比べて洗練され、組織として選挙を戦う強さがみられる。トランプ氏の新たな集票軍団「トランプフォース47」の活動に迫った。
「Join Trump Force 47 today! 」=「トランプフォース47(フォーティセブン)」に参加してくれ!
アメリカ大統領選が行われる今年、筆者がSNS「X」などをチェックしていると、
トランプ陣営からのこんなメッセージが目に付くようになった。
筆者はかねてトランプ氏のスタッフや共和党議員を多くフォローしているため、これまでもトランプ陣営からの献金の呼びかけなどのメッセージは頻繁に届いていた。ただ、「トランプフォース47」というのは、今年初めて目にした名前だ。
メッセージに記載されているリンクをクリックし、ウェブサイトを訪ねると、以下の説明文がある。
「トランプ・フォース47は、極左リベラルの民主党を打ち負かすために共に活動する、公式のボランティア軍団です。あなたの小さな時間の積み重ねが、11月の選挙結果に大きな影響を与えます」
「トランプフォース47」。
人気アイドルグループのようにも聞こえる響きだが、「フォース」は軍、「47」は第47代、次のアメリカ大統領を意味する。
トランプ氏を大統領に当選させるための選挙ボランティアのネットワークの名称だ。
ボランティアに登録する人は、名前や住所などに加え、「ターゲット有権者への働きかけ」「電話かけ」「ミニ集会を主催」など、自分が貢献できそうだと思う活動を申告する。いずれの活動も票を地道に積み上げる、「どぶ板」の選挙に欠かせない。
また、ボランティアに応募してきた人たちに対しては、トランプ陣営が選挙活動のノウハウを伝える研修を実施する。
ただ、研修は全米では開いておらず、大統領選の勝敗を左右する7つの激戦州に集中して開催している。
トランプ陣営は、激戦州の熱心な支持者らを地域の票をとりまとめるリーダーに育成し、「集票マシーン」を構築する戦略をとっているのだ。
トランプ陣営の選挙戦は、2016年と20年にはトランプ氏の持つ支持者を惹きつけるキャラクターに頼った、「空中戦」の側面があった。
今回は初めて強力なボランティアネットワークを組織し、組織の力で1票ずつ票を積み上げる「どぶ板」選挙で勝利を手繰り寄せようとしている。
7月に開かれた共和党の全国大会でも、「トランプフォース47」の活動を熱心に行ってきたという女性が登壇。今回の選挙戦で重要な役割を担っていることを伺わせた。
「私は去年からの1年間で1000時間以上、トランプ陣営のためにボランティア活動をしました。私たちは1分たりとも休むことはできません。大統領選でトランプ氏に投票するよう、20人の人に伝えましょう。そうすれば、私たちは地滑り的大勝利を収めることができます」
大統領選の「激戦州」の中でも今回、最も勝敗に大きな影響があるとみられているのが東部のペンシルベニア州だ。「トランプフォース47」も重点を置いて活動している。
8月中旬、私たちはペンシルベニア州の静かな街・エリーに住む「トランプフォース47」の熱心なメンバー、ティム・クズマさん(58)を訪ねた。
クズマさんは不動産会社に勤めながら、週に2日ほど、選挙ボランティアをしている。自ら「トランプフォース47」のロゴを刺繍したポロシャツやジャケットを作成する熱の入れようだ。
私たちが取材した日には、自宅近くの住宅を10軒ほど戸別訪問。
単にトランプ氏への投票を呼び掛けるだけではなく、「11月5日の投票日に投票に行くのか」「期日前投票の方法は知っているか」など、最終的に1票でも多く積み上げるための細かな働きかけをしていた。
トランプフォース47のメンバー ティム・クズマさん
「トランプ氏を支持すると答えた人でも、4人のうち3人は実際には投票に行かない可能性があります。この地域では、投票率は高くても60%に達するかどうかです。実際に投票するトランプ氏の支持者を増やす必要があります」
活動はあくまでボランティアだが、戸別訪問の件数や研修会への出席などを重ねることでトランプフォース47の中で「昇進」。「キャプテン」などと呼ばれるようになり、トランプ陣営から特別な帽子やTシャツをプレゼントされるほか、選挙集会にVIPとして招かれるという“アメ”がついている。
現在、クズマさんが住む地域で活動している「トランプフォース47」のメンバーは150人ほどで、11月5日の投票日までに300人程度まで拡大したいという意向だという。
トランプフォース47のメンバー ティム・クズマさん
「前回、2020年の選挙では、民主党がこの地域に新たに引っ越してきた家族800軒を一戸一戸訪ねて投票を呼び掛け、結果として民主党が勝利しました。今回、私たち共和党が勝利するためには、もっと多くの新たな有権者を取り込む必要があります」
トランプ陣営が今回、新たに取り組んでいるのは、ボランティアネットワークの構築だけではない。「郵便投票の奨励」も、重要な意味を持つ新たな戦略だ。
トランプ前大統領(5月 ミシガン州での選挙集会)
「どんな方法で投票しても構わない。期日前投票でも、当日に投票所に行っても、郵便投票でもいい」
前回、2020年の大統領選をめぐり、トランプ氏は事前に郵便で票を送る「郵便投票」で大規模な不正があったと主張。自らの敗北を認めない根拠の1つとしていた。
ただ、郵便投票は投票総数の3割程度を占めるともみられている。
そうした事情もあってか、今回、トランプ氏は従来の主張を一転。郵便投票を奨励し、確実に票を積み上げる方針を打ち出した。
「トランプフォース47」のメンバー、クズマさんも、戸別訪問の際に郵便投票の方法を説明。
11月の投票日当日に投票に行くつもりだと答えた人にも、急用が入ったり、体調を崩したりして投票に行けなくなるおそれを指摘し、できる限り郵便投票を活用するよう呼びかけていた。
大統領選まで2か月半。民主党が華やかに党大会を開催する陰で、トランプ陣営は泥臭く、激戦州の票を積み上げている。
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