40分ほどの演説は力強く、さながら検察官による「トランプ氏への冒頭陳述」のような印象も受けた。トランプ氏を何度も名指しして批判も繰り広げたカマラ・ハリス氏の指名受諾演説。ハリス氏は「アメリカの未来のための戦いだ」と強調した。

ハリス氏「全てのアメリカ人のための大統領になる」

大歓声を受けて登場したハリス氏の演説は、まず自身の生い立ちを振り返るところから始まった。検察官だった経歴に触れ、ハリス氏は「人々のために働いてきた」「党や人種や性別に関係なく働いてきた」としたうえで「私は全てのアメリカ人のための大統領になる」と強く訴えた。

この演説で注目していた点の一つが「トランプ氏に対峙する姿勢をどう示すか」というところだったが、かなりの“トランプ批判”をした。ハリス氏は主に、トランプ氏の過去の行為について糾弾。たとえば、前回の選挙結果を受け入れなかったことや「議会乱入事件」を止めようとしなかったこと、詐欺や女性暴行で有罪評決を受けたことへの批判を展開した。

そして、最近の演説で良く使うフレーズで、「我々は後ろに戻るのではなく、前に進むのだ」と訴えると会場からは大きな歓声が沸いた。

「金持ちの友人のために働いている」政策面でも“トランプ批判”

予備選挙をせずに大統領候補となったハリス氏にとって、政策面の主張をどのように国民に伝えるのかというのも一つの注目点だった。

まずハリス氏が演説で訴えたのは主に「中間層への経済政策」。

ハリス氏は「小さなビジネスに対しても差別をしないシステムを作る」、「住宅不足への対応」、「社会補償を守る」と自身の政策を話したうえで、トランプ氏への批判も展開。トランプ氏のことを「金持ちの友人のために働いている」とし、「私は中間層のために減税を行う」ということを訴えた。

また、外交面では「国際協調」を重視する考えを示し、「トランプ氏はNATOから脱退すると脅した」とチクリと刺した。

財源示せず「ポピュリスト政策だ」 ハリス氏政策に批判も

一方、バイデン氏とは違う「色」をどう見せるのかという点では厳しい目も向けられている。16日、ハリス氏は自身の「経済政策」を発表した。演説でも訴えた「中間層の支援」を念頭においた中身だが、これに対する厳しい批判も目立つ。

「食品の不当な値上げを禁止する“連邦法”を制定する」という政策を打ち出したのだが、何が「不当な値上げ」なのか判断する基準は示されていない。元検察官のハリス氏らしく、「違反した企業には罰則を科す」と不正をただすような政策だが、保守系メディアのFOXニュースは「ハリスは共産主義者だ」と手厳しく批判した。

また、各種「税控除」を掲げる一方でその財源は示されておらず、リベラル系メディアのワシントンポストは「ポピュリスト政策だ」と見出しをつけて報じている。

今後も具体的な政策を発表すると新たな批判も出てくるだろう。その時に、いまの勢いに陰りが出てくる可能性も考えられる。

支持率ついに逆転 攻めあぐねるトランプ氏

一方のトランプ氏だが、ハリス氏に対する攻め手を欠いている様子だ。民主党大会が開催されている裏で、ミシガン州やノースカロライナ州といった「激戦州」で演説を行ったが、ハリス氏への口撃も鳴りを潜めている。

ここ最近、「ハリスは共産主義だ」とトランプ氏は繰り返し、「新しいあだ名をつける。カマラ“同志”だ」という発言もしているが、これまで展開してきたバイデン氏への攻撃に比べると、明らかにやりにくそうだ。ハリス氏に対し、人種に絡む攻撃をするのだが、そうした発言には身内であるニッキー・ヘイリー氏から「人種とかの攻撃をしている場合じゃない。戦略を変えないと負けますよ」と苦言を呈される始末だ。

主要な世論調査の平均で、ハリス氏はトランプ氏の支持率をついに抜いた。(ハリス氏48.2%対トランプ氏46.7% リアルクリアポリティックスより)今後、「不倫口止め事件」の量刑の言い渡しを控えているだけに、効果的な攻め手を見出したいところだろう。

次の注目点は、ハリス氏とトランプ氏が直接対峙する9月10日の「大統領候補者テレビ討論会」だ。お互いの攻撃をする格好の場であると同時に、政策論争の舞台ともなる。ハリス氏が支持率で上回ったものの、接戦であることに変わりはない。2か月あまりに迫った投開票日に向け、両者の戦いはますますヒートアップする。

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