山添博史・防衛省防衛研究所米欧ロシア研究室長=東京都新宿区で2023年2月8日、内藤絵美撮影

 ウクライナ軍が今月6日、ロシア西部クルスク州への越境攻撃を開始した。作戦は現在も続いているとみられ、ウクライナ側は約1250平方キロの地域と約90集落を制圧したと主張している。2022年2月以来侵略を受けてきたウクライナが、逆にロシア領に進軍して戦況にどう影響を与えるのか。今後の見通しについて、山添博史・防衛省防衛研究所米欧ロシア研究室長に聞いた。【聞き手・松本紫帆】

 ウクライナ軍による越境攻撃を巡り、ウクライナは空てい師団などの精鋭部隊を送り込み、米独の強力な兵器を使用するなどその本気度が徐々に明らかになってきた。ロシア西部クルスク州での占領地拡大という点では成果を上げており、ウクライナが有利な戦場を開く能力があるということを示した。

 ウクライナはこれまで東部の戦線で露軍に押され、守勢に回る展開を強いられてきた。それだけにこれほどの戦力を残していたことは予想外だった。

 ウクライナ国内では、ここ数カ月、露軍が東部ドネツク州などで占領地を増やし続けていることから、国民の間で戦争継続や戦地へ赴くことへの不人気が広がっていた。こうした中、越境攻撃によって「負けてゆく戦争ではない」と国内外に示した。

ロシア、クルスク州

 一方で、この作戦によって、ウクライナ東部前線の露軍の勢いを抑えるには至っていない。現在攻防が続くドネツク州ポクロウシク正面からクルスクに露軍の部隊が移動するといった動きはほとんど見られない。それでもウクライナ軍はロシア領内で兵力や装備品に被害を受けながらも2週間以上作戦を続けており、長期的に続くかが注目される。

 ロシアとしては、今回ロシアの本土で、それもモスクワから500キロほどの都市が占領された。クルスク州のロシア人が居住する町を破壊してまでウクライナ軍に反撃するという手法は取りづらく、ウクライナ軍が一定の期間、占領地を保持する可能性も考えられる。

 また、ロシアは今後、今回のようなウクライナからの攻撃に備え続けなければならなくなったとも言える。

 ウクライナ戦争全体としては、露軍が東部で有利な状況をウクライナ側がどう止めるかが長期的な課題となる。ウクライナは今回の越境攻撃やモスクワへの無人機(ドローン)攻撃など意表を突く攻撃を仕掛け続けるだろうが、米欧の支援を呼び込み続け、最前線の兵力や資源を確保することが重要になる。

 露側の脆弱(ぜいじゃく)性を見つけて、反撃を続けていけば今の戦況の打開につながるかもしれない。

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