韓国の尹錫悦大統領。総選挙で与党「国民の力」が惨敗した(ロイター)

韓国の国会議員選挙(10日投開票)で、与党が前回2020年とほとんど同じ結果の敗北を期したのは、尹錫悦(ユン・ソンニョル)体制が、「朝鮮李王朝型の政治文化」に没していたためだ。「尹大統領は与党が敗北してから反省するのだろうか」と、選挙戦直前の本連載(3月27日発行)に書いた。その通りになった。

朝鮮李王朝は、主流派の廷臣(ていしん)が王を囲み、自分たちに都合が悪い情報が王の耳に入らないようにした。そうしたなかで、王の「お言葉」をもって、廷臣は反主流派を攻撃した。秀吉軍が攻めてきたときですら、彼らが気に入らない前線の司令官(典型が李舜臣=イ・スンシン=救国の英雄)らの追い落としに血道を上げた。

韓国の尹錫悦大統領は、側近が定めた「大統領と対面するときの5つの禁」をもって、好ましい情報しか耳に入らないようになっている。

「5つの禁」とは、「口答え」「聞き返し」「反論」「長い説明」「問題提起」の禁止だ(文化日報2023年12月12日)。

そうした中での大統領の発言(韓国メディアでは『尹心』という)をもって、側近は「従北左翼」と戦うより、前線の司令官(韓東勲=ハン・ドンフン=与党非常対策委員長)の足を引っ張って回った。

夫人の高級バッグ受け取り問題は、野党の格好の攻撃材料なのに、大統領はグズ対応を続けた。首席秘書官が左翼テレビ局の記者に向かって「刺し身包丁テロ事件を覚えているか」と暴言を吐いた際も、秘書官をかばい続けて、与党支持率の大暴落を招いた。

韓東勲氏が公認候補の出陣式で「ここで負けたら、尹政権は何一つ公約を実現できずに終わる」と悲壮な演説をした翌日になって、ようやく秘書官の辞意を受け入れた。が、もはや与党支持率は回復しなかった。

尹大統領は23年1月、朝鮮日報とのインタビューで「24年選挙で与党が多数を占めれば公約は問題なく実現できるが、多数が得られなければ〝植物大統領〟になる」と述べた。

24年選挙での勝利を展望して、それまでは臥薪嘗胆する心意気を語ったのだ。

それなのに彼は、李王朝型政治文化にのみ込まれ雲上人になり、〝植物大統領〟に堕ちたのだ。

しかし〝植物大統領〟とはいえ、韓国の大統領権限は大きい。外交は専権事項だし、国会のチェックを受けずに行える政策は多々ある。

反省したなら、3年後の大統領選挙で、自由陣営の候補が勝利できるよう手を尽くすべきだ。その大前提になるのは、李王朝型政治文化からの脱却だ。(ジャーナリスト 室谷克実)

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