米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのエバン・ゲルシコビッチ記者=露中部エカテリンブルクで2024年6月26日、AP

 米政府は1日、米国やロシアなどの収監者計24人の身柄交換が行われたと発表した。ロシアで収監中だった米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの米国人記者エバン・ゲルシコビッチ氏も含まれる。欧米メディアは「東西冷戦以降では、最大規模の身柄交換」と報じている。

 北大西洋条約機構(NATO)の加盟国で、ロシアとも良好な関係を保つトルコの情報機関が仲介し、首都アンカラで1日に身柄の交換が行われた。

米露間の身柄交換で解放された米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの記者のエバン・ゲルシコビッチ氏(右)と元米海兵隊員ポール・ウィラン氏=ロイター

 米政府などによると、ロシア側は米国人やドイツ人ら16人を釈放し、欧米側はロシア人8人を引き渡した。このほか、子ども2人もロシアに渡った。

 釈放された米国人と米国の永住権保持者は計4人で、ゲルシコビッチ氏のほかは、2020年にスパイ罪で禁錮16年の判決を言い渡された元米海兵隊員ポール・ウィラン氏▽米政府系「ラジオ自由欧州・ラジオ自由(RFE・RL)」の記者、アルス・クルマシェワ氏▽ロシアの反政権活動家のウラジーミル・カラムルザ氏。また、ロシアの人権活動家のオレク・オルロフ氏や野党指導者のイリヤ・ヤシン氏らも釈放された。

 米政府高官によると、米政府はロシアの反体制派指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏も身柄の交換に含めようと試みていたが、2月に収監されていた北極圏の刑務所で死亡し、実現しなかったという。

 一方、欧米諸国が釈放した中には、ドイツでロシア南部チェチェン共和国の元戦闘員を殺害し、19年に終身刑を言い渡された露連邦保安庁(FSB)の工作員、ワジム・クラシコフ元大佐が含まれる。

ロシアで拘束されていた米国人の解放について発言するバイデン米大統領=2024年8月1日、ロイター

 米政府高官によると、ロシアはクラシコフ元大佐の釈放を執拗(しつよう)に求めていた。バイデン米大統領はショルツ独首相と電話などで意見交換を重ね、ショルツ氏は最終的に「あなた(バイデン氏)のためにこれをする」として、釈放を承諾したという。

 また、バイデン氏は7月21日、大統領選からの撤退を発表する1時間前にも収監者がいるスロベニア側に電話し、最終調整に当たったという。

 米国人記者のゲルシコビッチ氏は23年3月、露中部エカテリンブルクで取材中にFSBに拘束された。その後、防衛企業に関する機密情報を米中央情報局(CIA)の指示で収集したとして起訴され、7月に懲役16年の判決を受けていた。

トルコのエセンボア国際空港の駐機場に見えるロシア政府専用機とプライベートジェット=アンカラで2024年8月1日、ロイター

 ゲルシコビッチ氏らを乗せた飛行機は1日夜、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着し、バイデン氏とハリス副大統領が出迎えた。

 バイデン氏はこれに先立ち、ホワイトハウスで演説。とりわけドイツの譲歩が重要だったとし、「同盟国なしでは実現できなかった。信頼できる友人と協力することの重要性を示す例だ」と強調した。多国間の協調に否定的なトランプ前大統領を念頭にした発言とみられる。【ワシントン松井聡】

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