米南部テキサス州で演説するバイデン大統領=2024年7月29日、ロイター

 バイデン米大統領(民主党)は29日、連邦最高裁の抜本的な改革案を発表し、法制化に向けて議会の協力を求めた。最高裁の保守的な判決や判事の過剰接待疑惑を受け、最高裁に対する支持率は過去最低水準で推移している。改革案は判事に任期制限を設けるなどし、信頼回復を目指すとしている。だが下院は共和党が過半数を占めており、実現の見通しは立っていない。

 バイデン氏は南部テキサス州で、「裁判所と民主主義に対する信頼と説明責任を回復するため、三つの大胆な改革を求める」と演説。最高裁判事の任期制限▽拘束力のある行動規範の策定▽大統領の免責特権の制限――の三つを挙げ、「米国民の大多数や、一流の憲法学者や進歩派、保守派も支持する常識的な改革であり、実施するために議会と協力することを楽しみにしている」と語った。

 連邦最高裁は、憲法の解釈を示すことを通じ、「移民と多様性の国」である米国の社会を形作ってきた。判事は首席(長官)を含め9人。大統領が指名して上院で承認されれば、自ら辞任する場合などを除き、終身の任期が確保されている。数十年にわたって大きな影響力を持ち続けるため、大統領をしのぐ権限を持つと評されることもある。共和党のトランプ前大統領が保守派を3人指名したため、現在は保守派6人、リベラル派3人の構成だ。

 改革案では、判事に任期制を導入し、定期的に入れ替わるようにする。大統領が2年ごとに判事を1人指名して交代させていくことで、任期を18年に制限する。過剰接待疑惑などを踏まえ、判事が受け取った贈答品の開示や、判事や配偶者が利益相反にある案件を担当しないことを義務付ける規定を定める。

 また、大統領が在任中に犯した罪を免責しないよう憲法を改正する。トランプ氏が2020年大統領選の結果を覆そうとしたとして起訴された事件で、最高裁が今年7月、大統領在任中の公的行為に「免責特権」が適用されると判断したことが背景にある。バイデン氏は演説で「この国は、王は存在しないという原則の下に建国された。法の上に立つ者はいない」と強調した。

 最高裁への信頼は近年低迷している。米調査会社ギャラップが23年9月に発表した世論調査によると、支持率は41%で、不支持率は過去最高に並ぶ58%だった。20年7月に58%あった支持率は、最高裁が21年にテキサス州の人工妊娠中絶を原則禁止する州法を容認して以降、急落。同年9月に過去最低の40%を記録し、その後も40~43%で推移している。

 22年6月には、1973年に女性が人工妊娠中絶を選ぶ憲法上の権利を認めた歴史的判例の「ロー対ウェイド判決」を半世紀ぶりに覆し、州による中絶の禁止や制限を容認する判決を下した。リベラル派の不満は顕著で、23年9月の調査では最高裁が「保守的すぎる」と回答した人が過去最高の42%に達した。

 さらに、23年には保守派のクラレンス・トーマス判事が共和党の大口献金者から高額な接待などを受けていた疑惑が報じられた。最高裁はその後、判事に関する初の行動規範を策定したが拘束力はなく、実効性が疑問視されている。

 また米メディアは24年5月、サミュエル・アリート判事の自宅や別荘に20年大統領選に不正があったと主張するトランプ氏の支持者らが使っていた旗が掲げられていたと報じた。民主党議員らは、中立性が疑われかねないとしてアリート氏に20年大統領選に関連する審理から外れるよう求めたが、アリート氏は拒否した。【ワシントン西田進一郎】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。